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軍隊と住民 №43 [雑木林の四季]

2 訴訟団の結成

                                  弁護士  榎本信


 「横田基地爆音なくす会」は、1976年2月いよいよ公害訴訟の提起を決定した。そして同年2月7日付で、関係各自治会長宛に次のような申入れを行った。

 横田基地の夜間飛行禁止と賠償請求の裁判をはじめるにあたって
 あけましておめでとうございます。
 私たち横田基地爆音なくす会は、昭和47年11月結成以来、横田基地による爆音その他の公害に反対して、米軍・国・各自治体との交渉などの諸活動を続けて釆ました。
 この私たちの活動は、例えば、国が住宅防音工事を、基地に近い第二、第三種地域をあとまわしにして、基地から遠い第一種地区だけおこなおうとしていたのを改めさせるなど、決して小さくない成果をあげてきました。
 しかし、国は依然として、夜間飛行の禁止、地上音の規制、堀向地区などの破壊された生活環境の再整備など、被害住民にとって最低限度の要求に対してさえ、全然何の施策も講じようとしていません。
 そればかりか、国は、「騒音線引き」によって、住民の立退区域の拡大をはかり、さらに、昨年9月、米軍第345部隊の横田基地移駐を許し、以来、騒音被害は一挙に倍増している現状です。
 したがって、私たち爆音をなくす会は、横田基地周辺住民に残された最後の手段として、本年3月ないし4月を期し、
 (1)夜9時から翌朝七時までの深夜飛行及び地上音(エンジンテスト)の禁止
 (2)過去及び将来爆音被害がなくなるまでの損害賠償(慰謝料)の請求
の裁判を起こすことを決定しました。
 この裁判によって、夜間の飛行及び地上音が禁止されれば、横田基地周辺のすべての住民に静かな夜が訪れ、金銭賠償が認められれば、原告にならなかった被害住民もすべて国に対して同様の賠償を求めることができるようになり、いずれにしても、私たちの街とくらしを破壊し続けてきた基地公害に大きく歯止めをかけ、町を再建復興に向かわせることは疑いありません。
 そこで、私たち爆音なくす会は、会員であると否とを問わず、被害地域のすべての住民の方々によって訴訟団を結成し、原告を選んで、この横田基地公害差止め・賠償請求を起こすことを皆さんに呼びかけたいと考えます。
 このため、被害地域ごとに、この裁判に関する私たちの提案を具体的に説明させて頂きたく会合を、次の要領で開いて頂きたいと思います。(中略)
    自治会長各位

 こうして、昭島市、福生市内の基地周辺29の自治会に対して訴訟の説明会の開催を訴えかけたのである。会のテーマは、「どのようにして横田基地公害訴訟を起こすのか。(付)「大阪空港裁判の教訓」というものであった。説明する方の爆音なくす会幹部、弁護団員用のマニュアルである「横田基地公害訴訟の構想のあらまし」は、つぎのように書いている。


   一 なぜこの訴訟を起こすのか。
  (1)住民の団結の力によって深夜飛行をやめさせ、基地周辺に住みよい環境を作る
  (2)爆音や街破壊など基地公害によって受けた有形無形の損害を賠償させる
  (3)基地公害が将来、更に増大しないための歯止めをかける
   二、どんな裁判を求めるのか。
  (1) 基地公害の差し止め
    夜九時から朝七時までの飛行及び地上音(エンジンテスト)の禁止
  (2) 基地公害による生活被害に対する慰謝料請求
    (イ)これまでの損害に対する賠償として住民一人につき一律100万円
    (ロ)将来も基地公害の続くかぎり住民1人につき一律一カ月2万円
      (以下略)

 裁判費用は、1世帯1年2000円の会費とカンパでまかなっていこうという方針であった。
 訴訟団の組織化については、思想信条を問わず、爆音に悩むすべての住民が参加できることが最優先に考えられたのである。爆音なくす会の会員・弁護団による「訴訟説明会」が各地の自治会の会館などで毎晩のように開かれた。爆音なくす会の幹部や弁護団の説明に対しては、さまざまな質問や意見が出された。そのいくつかを挙げておこう。

① いったい、お上(国)を相手に勝つ見込みあるのか?
 -それはわからない。しかしこのまま黙っていてもしかたない。大阪空港周辺住民に負けずに頑張るべきだ。
② 負けたら相手の裁判費用も払わされるというではないか、大丈夫か?
 -訴訟費用の敗訴者負担というのは、印紙代などのことでそんなに多額ではない。
③ この訴訟の裏は、アカ(共産党)がやってるといううわさがあるがどうなんだ7
 -共産党の人もいるが、自民党の人もいる。
④ 私は、訴訟の趣旨には賛成だが、公務員なので参加できない。
 -公務員で、訴訟に参加する人もいる。何とか一緒にやれないか。
⑤ 私は基地に勤めているので、残念だが参加できない。
 -やむを得ないのなら、応援してほしい。
⑥ 夜だけ飛行禁止というのは、なまぬるい。全部止めさせるように要求すべきだ。
 -誰でも納得させられる控え目な要求から始めようという趣旨である。
⑦ 住民一律同じ金額の損害賠償請求というのは納得できない。私は、爆音のお陰で商売の売り上げは悪いし、貸家の家賃も取りづらい。その損害も要求してほしい。
 -まず、みんな同じレベルの要求をし、団結して闘う中で、高い要求をだんだん勝ち取っていこう。
⑧ 私の親戚のものが、弁護士にだまされてうんと裁判費用を取られて大損をした。弁護士費用は大丈夫か。
 -裁判費用は、会責でまかなっていく。弁護士さんは、当面手弁当で頑張るという。
⑨ 私は、訴訟団に入るのは賛成だが、夫が大きな会社に勤めていてむずかしい。
 -無理をしないで、応援してほしい。

『軍隊と住民』日本評論社


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