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日めくり汀女俳句 № [ことだま五七五]

九月一日~九月三日

                                        句  中村汀女
                                                                    文  中村一枝

九月一日

  天の川話し残しはいつもある
            『紅白梅』 天の川=秋

 戦争が終わったとき、小学六年生の私が新学期まずした作業が、教科書に墨を塗ることだった。担任は二十歳そこそこの若い女先生、髪をきりっと結びモンペをはいていた。先生が、何と言って私たちに墨を塗らせたのか覚えがない。国語と歴史の本は真っ黒になった。私はかえって敵愾心(てきがいしん)をもやし、墨を塗るなら全部中身を覚えていてやろうと思った。
 ドーデーの小説「最後の授業」。身につまされて読んだ。墨を塗る行為のおろかさも、ずっと間違ったことを教えられていた悔しさも今、私の中では同じ重さである。

九月二日

  一筋の秋風次の風誘ふ
        『芽木威あり』 秋風=秋
 山の生活から久しぶりに都会へ戻ってくると、何とまあ、物のあふれていること。スーパーの棚を見ているうちに、段々目が疲れてきた。これを退化、老化と呼ぶべきなのか。これが生活の便利というものだと、何の疑いもなく思っていた。
 実際、至れりつくせりの観があるくらい、品揃えが豊富なのだ。山のスーパーのがらすきの棚、十分もあれば一巡してしまう簡素さ、なれてみると、こっちの方が本当なんじゃないかと思う。
 折しも、商品の混入物の話題が連日。商業主義の行きつく先が見える気がする。

九月三日

  朝露の秋草も摘み髪も梳き
         『花影』 朝露=秋 秋の草=秋

 「あれっ、叉色を変えたの?」息子の髪の毛 の色を見て思わず笑い出した。一年の間に六回以上も、金・緑・灰色・まだら……職業がデザイナーだから、まわりもさして気にとめない。それにしても髪の色、髪型、これだけ自由なのに、未だにくせっ毛にストレートパーマをかけさせたり、天性の茶髪を黒に染めさせたりする学校もあるらしい。
 私も若かったら、きっと、いろんな色に染めちゃって楽しんだかも知れない、と言ったら、友人のヘアデザイナー日く、
 「あんた、これだけ髪の毛を痛めつけてりゃあ、三十年先には多分そこいら中、ハゲになると思うわよ」

『日めくり汀女俳句』邑書林


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