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原爆詩集 №23 [核無き世界をめざして]

その日はいつか  1

                                                                                  詩人  峠 三吉

熱い瓦礫と、崩れたビルに 
埋められた道が三方から集り
銅線のもつれる黒焦の電車をころがして交叉する
広島の中心、ここ紙屋町広場の一隅に
かたづけ残されころがった 君よ、

音といっては一かけらの瓦にまでひび入るような暑さの気配
動くものといっては眼のくらむ八月空に
かすれてあがる煙
あとは脳裏を灼いてすべて死滅したような虚しさのなか
君は 少女らしく腰をくの字にまげ
小鳥のように両手で大地にしがみつき
半ば伏さって死んでいる、

裸になった赤むけの屍体ばかりだったのに
どうしたわけか君だけは衣服をつけ
靴も片方はいている、
少し煤(すす)けた片頬に髪もふさふさして
爛(ただ)れたあとも血のいろも見えぬが
スカート風のもんぺのうしろだけが
すっぽり焼けぬけ
尻がまるく現れ
死のくるしみが押し出した少しの便が
ひからびてついていて
影一つないまひるの日ざしが照し出している、

青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/


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