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雨の日は仕事を休みなさい№6 [アーカイブ]

 全力投球するのはやめなさい     「ほどほど」が好結果を生む 

                              鎌倉・浄智寺閑栖  朝比奈宗泉

 禅の話はどうしても抽象的になってしまいますが、ここで現実的な話をしてみましょう。
 これも、テレビ局時代のことです。弟が関係する知人の技術者でした。常に終電車で帰るほどよく働く人で、その日も、時計をみると終電車近くなっていました。彼は慌てて会社を退社し、最寄り駅まで走りました。改札を駆け抜けると、ホームには電車が入っており、発車ベルが鳴っていたそうです。乗り遅れないように、階段をかけ降りようとしたとき、あまりにも慌てていたので階段を踏み外してしまい、そのまま下まで転がり落ちてしまいました。意識不明のまま救急車で病院へ運ばれましたが、結局、意識は戻らず、脊椎を傷つけたらしく植物人間状態のまま2年ほど入院生活を続けた末に、亡くなられてしまいました。
 彼がそれほど慄てず、力いっぱい走らず、階段を踏み外したときに、ちょっと踏み止まる余力を残していれば、そんな不幸は起きなかったでしょう。彼は仕事のできる男だっただけに、あとが大変でした。彼の抜けた会社では、彼がほとんど技術的なことを任されていたので、周りが右往左往してしまいました。
 もちろん、彼と彼のご家族には恩わぬご不幸でしたが、会社周辺にまで迷惑をかけてしまったことになります。結果論ですが、もう少し力を抜いて、仕事に打ち込めば、こんな結果にはならなかったのでは、と考えるしだいです。彼は仕事に全力を使い尽くしてしまったのです。
 先の防衛省前事務次官の贈賄事件も内容は違っても、まさに同様な事件だと思われます。順調に出世して事務次官にまで上り詰めました。順風満帆、彼の人生には向かうところ敵なしの状態だったのでしょう。それが公私を混同させる結果になったのだと思います。
 「騎虎(きこ))の勢い」という言葉もあります。勢いに乗ってしまい、途中でやめにくいことをいいます。前事務次官が贈賄に手を染め始めたころは、「こんなことをしていてはいけない」という気持ちがあったと思います。それを何回も練り返しているうちに、その感覚も麻痺し、気がついたときにはもう引き返せないところまできていたのでしょう。彼はその地位(勢い)を使い尽くすようにして破たんしたわけです。
 また、日本のバブル時代、この世の春を謳歌した人々が多くいました。金余り日本はアメリカの不動産を買い占め、アメリカ文化の象徴である映画会社まで買収しました。それがどれほどアメリカ国民の反発を買っていたか、思い到っていた人が日本人のなかにどれほどいたでしょうか。
 今、日本はアメリカ資本などに脅かされ、従来の逆の道をたどっています。順調に出世したり、商売で儲けたり、思わぬ余録にありついたときこそ注意すべきです。本当にこの波に乗っていいのか、と……。

 選勢不可便尽(勢い使い尽くす可からず)『大慧武庫(だいえぶこ)』
 中国末代の法演禅師が、弟子の仏果禅師(『碧巌録』の大成者)を舒州(じょしゅう)の太平寺の住職にするにあたり、与えた四つの戒め(「法演の四戎」)の第一戒です。
 「勢い使い尽くす可からず」を法演禅師は「勢いを使い尺くすと必ず禍いに圭る」と自ら説いています。
 人は物事がうまくいっていると、「いいわ、いいわ」といい気になって大きな動きをし、失敗します。力は八分で止めておかなければなりません。ついつい、「オレはそれだけの地位にある、力を持っているのだから、何をやってもいいのだ」と考えがちですが、そこは上手な人の生き方からすれば、調子に乗ってはいけないポイントです。うまくいっているときが一番用心しなければならないときなのです。
 ちなみに、「法演の四戎」には、第一戒以外に次の3つの戒があります。
 第二戒 福不可受尽(福受け尽くす可からず)
 第三戒 規矩不可行尽(規矩(きく)行い尽くす可からず)
 第四戒 好語不可説尽(好語説き尽くす可からず)
 福(幸福・楽しみ)、規矩(規律)、好語(真理、美句など)、いずれも人間にとって大事なことですが、やり過ぎると禍いになる、ほどほどにしておけと説いています。

『雨の日は仕事を休みなさい』 実業之日本社


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