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図書館の可能性№3 [アーカイブ]

図書館の可能性                 昭和女子大学教授  大串夏身

効果の計測をすると

 それは、次のような事例である。国立国会図書館の「カレントアウェアネス-E」に紹介があるので、引用しておこう。  

  ヵーネギー図書館は地域社会にどう貢献しているか(米国) 米国・ピッツバーグ市のカーネギー図書館が、百十年の歴史において初めて地域への貢献度を計量化した。カーネギー図書館とカーネギーメロン大学の経済開発センターは、カーネギー図書館の地域への影響を「投資に対する効果=経済的価値」「地域社会や.住民に対する寄与」といった側面から分析した結果を報告書にまとめ、この度発表した。 

 この調査は2005年、1300人を超える個人や二つのフォーカスグループ(ビジネス利用者、関連機関の人)を対象とした調査、費用対効果分析などによ。行われた。経済面での影響では、年間9100万ドル(約101.4億円)以上の経済効果(1ドルの投資に対して3~6ドルの利益)をもたらしていることや4100万ドル(約45.7億円)相当の図書・DVD・データベースなどを無料で提供していることが、地域住民に対するリテラシー教育との関係・地域社会への寄与については、子どもの読書を推進する施策を行っていること、図書館計画へ多くの地域住民の参画を得ていること、図書館における集会活動などに利用されていることなどが、それぞれ示されている。

 また、地域住民の間で、リテラシー教育・学習への寄与をはじめ、暮らしの質(QOL) の向上、子どもや若者を対象とした活動などにおいて図書館の活動が利益をもたらしているとの認識が高いとも報告されている。

 なお、効果という点では、図書館を継続的に利用した結果、個人の精神的な生活や社会の質の向上にいい結果をもたらしたというレベルのものもある。これは長期にわたる観察の結果判断されるもので、具体的な計測は無理だろう。 図書館は一般的にいいもの、社会に役立つもの、という理解で、質的にもいい結果をもたらしているとしか言いようがない。 ただ、前記の調査結果には、「地域住民の間で、リテラシー教育・学習への寄与をはじめ、暮らしの質(QOL) の向上、子どもや若者を対象とした活動などにおいて図書館の活動が利益をもたらしているとの認識が高いとも報告されている」とある。こうした面では、住民、利用者の認識とも深くかかわるものであることも理解できる。

次に、(図書館の価値)を高めるということを通して、図書館の(可能性)を高めるということについて考えてみよう。

  図書館の価値を高める

(図書館の価値)と言ったとき、次の三つが考えられる。1)図書館それ自体がもつ価値。それぞれの設置日的にあわせた良質なコレクションをもつこと、つまりコレクションの価値である。2)利用者に目的をもって活用してもらい、その結果、社会的に有用な、あるいはプラスの成果物をもたらすことによって価値を評価される。3)社会的、国家的な視点からの価値の評価。 

 1)「図書館それ自体がもつ価値。それぞれの設置目的にあわせた良質なコレクショソをもつこと、つまりコレクションの価値である」 

 これは、優れた図書をもっている図書館が社会的に高い評価を受けていることから言える。ヨーロッパの歴史ある図書館の多くは、良質なコレクションをもっていることで社会的に高い評価を受けている。日本では、その例として東京大学附属図書館が上げられる。同図書館は、紀州徳川家から「南葵文庫」の寄贈を受け、現在そのコレクションのすばらしさを称賛されている。これは図書館が本来もっている役割、資料を後世に伝える役割を実現していると言える。 

 もう少し述べておくと、コレクションのなかに歴史的に重要な図書、学問史上重要な図書、文化的な観点から評価が高い図書などが含まれている場合、一般に価値が高いと見なされる。ヨーロッパでは、羊皮紙の美しい写本やグーテンベルクの『四十二行聖書』やインキュナブラなどを所蔵し、その点数が多い、系統的に収集されているなどの要素が加わると価値が高くなる。日本では、江戸時代の多色摺りの図版がある、滝沢馬琴などの著名作家の刊本がそろっている、近代になると有名作品の初版本があることなどで評価が高くなる。それらは、ときどき資料展示として公開される。 もちろん特定テーマに関して系統的な収集が行われているとか、そうした収集を行った収集家のコレクションが寄贈されているなどによっても、高い評価が与えられる。

 2) 「利用者に目的をもって活用してもらい、その結果、社会的に有用な、あるいはプラスの成果物をもたらすことによって価値を評価される」 

これは、小説家や研究者の成果物、つまり著名な小説や研究の新しい知見を生み出すもとになった資料を提供したとか、その図書館で勉強して立身出世した著名人、有名人がいるなどである。アメリカでは、図書館で勉強して、それがその人の人生を変えて、社会にプラスの効果をもたらしたなどの例は枚挙にいとまがないようである。たとえば、アソドリユー・カーネギーがそれで、カーネギーはそのことを忘れず、多くの人に図書館の恩恵を受けてほしいという願いを込めて、生まれ故郷のスコットランド、そしてイギリス、アメリカに2500館の図書館を作るための援助を行ったと言われている。このような例は、日本ではあまり聞かない。この価値をもつのは、ノーベル賞受賞者、有名実業家、高名な小説家、著名な人物などが活用した場合である。 

3)「社会的、国家的な視点からの価値の評価」 これは、図書館が収蔵する学術研究成果や知識・情報の蓄積、図書館の役割が企業・国家の戦略などを考えるうえで欠かせないという視点から、価値を評価するもので、アメリカは図書館を民主主義社会を作る基盤として位置づけている。また、国が図書館にかかわる各種の政策を立案して、それをすすめようとしているのもこれにあたる。企業が企業内図書室や情報センターを充実させたり電子図書館に取り組むことなどもこれにあたる。

 次に、図書館を充実させる考え方・方法について考えてみよう。『図書館の可能性』青弓社

 


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