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雨の日は仕事を休みなさい№4 [アーカイブ]

目標を立てるのはやめなさい   

                  鎌倉・浄智寺閑栖  朝比奈宗泉

 55歳のとき、私はTBSを退社しましたが、その後もテレビ業界に関わっていくつもりでした。友人の事務所の片隅を借りてプロダクションを立ち上げるために、その準備に奔走する毎日。   

 しかし、そうなってからは、不思議なことに「このままテレビ業界で過ごしていいものだろうか」と、なぜか迷いが生じたのです。そこで、当初はその迷いから脱却するための修行のつもりで、仏門に入りました。 修行は容易ではないことは、いろいろな人から話を聞いていましたから、いざというときは尻尾を巻いて撤退しなければならないかな、という心配もありました。だから、「僧侶になる」などという確固たる決意があったわけではありません。むしろ、修行中でも休暇をもらって寺を出て、プロダクションの社長業もできるのではないかと考えていました。ともかく修行だけはやる。そのあとのことは修行が終わってから考えようと思っていました。 

 しかし、修行に入ってみると半年は自由がなく、坐り続けなければならないので外には出られません。その間にもプロダクションを任せていた社員が、連絡のために家にやってきます。家のほうでも心配します。そうなると 「ああ、これはダメだな。会社との両立                                                      はとても無理だ」とプロダクションを辞める決心をしました。 

 そのうえ、修行に入った翌日から先輩の雲水たちから、「おまえには修行は無理だ、明日の朝には、荷物をまとめて帰りなさい」などと言われ続け、そうすると、「何を負けてなるものか」という反発心が出るものです。修行を続け、半年も経つと誰からも何も言われなくなり、よしもう一年頑張ろう、もう二年頑張ろうと続けているうちに三年経ち、浄智寺の副住職になるお許しが出たのです。 

 人間には、長い人生のなかで何度か転機があります。私にも何度かありました。終戦直後の混乱した時代に大学を卒業して、電鉄業界、証券業界、そしてテレビ業界と、その時代時代に新しい職業に出合い、最後は仏門に入りました。しかし、いずれも「これになろう」とか「これをやりたい」とかいう強い目標、計画があったとはいえません。ただ、与えられたチャンスには努力を重ねてきたつもりです。

 しかし、運命のままに新しい職業との出合い、紆余曲折があってそのたびに目標のハードルを上げたり下げたりしながら、その業界で一所懸命やってきたという感じはします。自分が求めてそうなったのではなく、時代や環境が自分の転機を決めてくれたともいえます。

 目標を持って、それに邁進するのもいいでしょう。それはその人の人生です。それぞれの与えられた人生を全うすることは大事なことです。ただ、むやみやたらに「こうしよう、ああしよう」と計画するだけでは、大した結果は出ないと思います。

 さらに、無茶な計画を立てると、達成できなかったときの挫折感も大きくなります。人生の転機を上手に掴むためにも、まず日々の生活をみつめ、欲求を抑えることが大切です。この求める心をやめると、みえてくることがあり、心配事も起きません。

 

 繍求心止処即無事(求心止む処即ち無事)『臨済録』

 

「求心止処」とは「求める心をやめること」です。「即無事」とは、「周辺に困ったこともなく、すべてが大丈夫で何の心配もないこと」をいいます。つまり「求める心を止めると、無事である」という意味です。 私たちは汚れなき清らかな心で生まれてきています。やがて成長するとともに考えも広くなり、ときとして誰しも欲を出してしまうことがあります。そこで臨済禅師は「外に求むることなかれ、造作するなかれ(必要以上に求めたり、小細工するのはいけない)」とも言われています。

 仕事や人生において目標のハードルを高くしてもかまいません。しかし、その高くした分だけ自分が悩み苦しむリスクも高くなることを覚悟しておかなければなりません。どのような仕事の内容であっても、最後の判断は自分自身が決めるわけですから、常日頃から余裕をもって対応できる気構えを培っておくことが必要です。 

『雨の日は仕事を休みなさい』実業之日本社


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