こころの漢方薬№1 [アーカイブ]
読書は美容術
文芸評論家・元武蔵野女子大学学長 大河内昭爾
美容にも漢方薬が用いられるようだが、美容術の手法にはいろいろあるにしても、読書もまた間接的ながら立派な美容術である。
評論家の河上徹太郎氏の読書論に、「読書とはもっとも簡単で、もっとも効果的な美容術であり、若返り法だといいたい。これは比喩ではなしに、具体的な事実だ。」とある。
体を動かす美容体操同様に、読書を頭脳の体操と考えればよい。美容体操がからだの線を引き締め、本人の気分を充実させるように、頭脳の体操も感覚を柔軟に質的な刺激を与えてくれる。それは人間の感情を深め、外からの化粧と違った内からの魅力を生むに違いない。それが証拠に読書の習慣を失った人ほど早くふけこむ傾向がある。
本を読んでも忘れると嘆く人がいるが、読んだことを忘れても、読んでいる間の物思いが、少しずつでも自分に奥行きのある表情を与えてくれているのを信じたほうがいい。読書とは、自分の習慣的なそして惰性的な考え方から解放されることである。教わるものでも憶えるものでもなく、まずそれによって頭と心を動かすことが何よりも表情を豊かにし精彩あるものにしてくれる。
老化現象にもいろいろあるが、頭が硬くなるのが何よりの老化であろう。頭が硬いといのは、考え方、感じ方が硬直して柔軟さを失うということであり、狭い堅苦しい枠のなかに閉じこめられれいることである。
いつまでも若々しい感性を保つには、読書によってさまざまな思考や経験とつきあうことによって、自分の思考の枠や経験の範囲から自由に出ていくことであろう。
ところで、読書にとっても、もっとも肝心なことは、それを習慣にするということである。読書の習慣のない人は、忙しくなったり、境遇に変化が生じると読書をやめてしまう。漢方薬が持続の効果を訴えるように、読書も何よりも習慣の大切さを求める。対症療法ではなく、体質改善的な心身の長期治療法をめざすものだから、習慣化された息の長いつきあいが大事なのである。
読書の中の喜びや悲しみ、感激や興奮が絶えず私たちの心をふるいたたせ、刺激し、想像力をかきたて、いきいきとした時間を持続させてくれる。それこそ何よりの若返り法というものであろう。 (『こころの漢方薬』弥生書房)
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