エラワン哀歌 №14 [文芸美術の森]
くちなし
詩人 志田道子
川岸の並木には
梢に雪でも降り積んだように
一重咲きのくちなしの花が咲きそろい
深い緑色の水面(みなも)に
沈みかける陽を受けて
波頭がひとつふたつ輝いていた
男は年上の女のだめに
リースリングをもう一杯注文する
川面に突き出た木製のグラス
撤収にときおり波が当たり
床をわずかに持ち上げては引いて行く
女は泣いてはいなかった
水面の闇が厚みを増すなか
ワイングラスを飾る光は何か
くちなしの香りの届く岸辺で
男は長い前髪を掻き揚げ
さきほどの熱い口約束を悔いている
『エラワン哀歌』 土曜美術出版社販売
『エラワン哀歌』 土曜美術出版社販売
2021-11-14 22:46
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