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エラワン哀歌 №14 [文芸美術の森]

 くちなし

      詩人  志田道子

 川岸の並木には
 梢に雪でも降り積んだように
 一重咲きのくちなしの花が咲きそろい
 深い緑色の水面(みなも)に
 沈みかける陽を受けて
 波頭がひとつふたつ輝いていた
 
 男は年上の女のだめに
 リースリングをもう一杯注文する
 川面に突き出た木製のグラス
 撤収にときおり波が当たり
 床をわずかに持ち上げては引いて行く
 女は泣いてはいなかった

 水面の闇が厚みを増すなか
 ワイングラスを飾る光は何か
 くちなしの香りの届く岸辺で
 男は長い前髪を掻き揚げ
 さきほどの熱い口約束を悔いている

『エラワン哀歌』 土曜美術出版社販売


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