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ケルトの妖精 №23 [文芸美術の森]

ファウル・ウェザー 1

           妖精美術館館長  井村君江

 むかし、ある遠い国に、世界でいちばんすばらしい大聖堂を建てたいものだと、夢中になっている領主がいた。ところがようやく大聖堂の土台ができあがったときには、金庫はからっぽだった。
 しかし、領主は心やさしい人だったので、「大聖堂を完成させるために、領民に税金をかけたくはない。工事をつづけるために、なんとかほかに手立てがないものか」と悩んでいた。
 この日も城を出て森の小道を歩きながら、思案にくれていた。
 そのとき、どこからともなく、小さくて奇妙な老人が領主の前に現れ、
「なにを悩んでいるのかね? おまえさんが頭を悩ますことはないのにさ」
と、じつはなにもかもお見通し、という口ぶりで言う。
「領民のために聖堂を建てようとしているんだが、資金が底をついてしまったのだ」
 領主が情けない思いで答えると、
「お金なんざもらえなくても、わしがりっぱな大聖堂を建ててやろうじゃないか」
 小人の老人は、こともなげに言った。領主は驚いてたずねた。
「お金がいらないとなると、何かほかにはしいものでもあるのかね? ご老人」
「聖堂ができる前に、わしの名前が当てられれば何もいらない。だけど、名前が当てられなかったなら、おまえさんの心臓をいただくまでさ」
 と小人の老人は答えた。
 それを聞いて領主は考えた。「大聖堂を建てるには長い月日がかかるだろう。完成するころには自分は死んでしまっているにちがいない。それなら、死人に心臓はもういらないのだから、心臓と聖堂を取り換えてもいいだろう」
「よろしい」
 領主がうなずくと、小人の老人はかき消えるようにいなくなった。
 その日の夜になると、大聖堂の土台のまわりで、大きな音がしはじめた。
 おびただしい数の毛むくじゃらの妖精たちが、ものすごい勢いで石を運び、槌をふるい、ひとときも休むことなく働いているのだった。
 次の日の朝になって、領主が工事現場に行ってみると、もう聖堂の壁が完成し、ぐるりとそびえて建っている。
 領主はあわてて、思いつくかぎりの名前を言ってみた。ところが妖精たちは、
「もういっぺん、考えてみな」
 と、笑うばかりだった。
 このままだと、あっという間に工事が終わってしまいそうなので、領主は時間をかけごっと、いろいろ新しい改良工事の注文を出してみた。しかし、どの工事もひと晩で終わってしまうのだった。(つづく)

『ケルトの妖精』 あんず堂

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