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対話随想余滴 №27 [核無き世界をめざして]

余滴27 関千枝子から中山士朗さまへ

           エッセイスト  関 千枝子

 この前、台風16号のこと書けなかったので、それを書きたいなど思っていたのですが、あの台風の悪夢が去らないうちのまた21号台風関連の大雨で千葉、茨城、福島など広い面で被害大変です。ことに千葉はこれでもかこれでもかというような災害です。でも十月になっての激しすぎるほどの台風、大雨、私には地球温暖化がもたらす現象としか考えられません。
そんなことを考えていましたら八千草薫さんが亡くなったという報道、続いて緒方貞子さんの訃報、なんだか惜しい方がどんどん亡くなられて残念です。
 
 でも、大分県立図書館の朗読会、よかったですね。私たちの「往復書簡」が朗読に耐えられるかどうか、面映ゆい気がしますが、原爆について、知ってもらい継承してもらうための一助になれば本当にうれしいことです。中山家のお風呂の温泉も春には復活できそうでよかったですね、この年になると、本当に身体を暖めることの大切さがわかります。
 実は;私、このあたりでとてもいい報告ができると思っていたのです。「決まった」という返事がないので、あきらめながらイライラしていたのですが。でも来た「知らせ」は、だめと決まったということで、本当にがっかりしています。
 実は八月の終わりに、某テレビ局の方(局の正社員でなく、製作ディレクター)から話があり、来年の夏、私の『広島第二県女二年西組』を再現ドラマにしたいということでした。それは、来年夏は大変。つまり夏はどのメディアも戦争と平和のことを考えるチャンスで、原爆関係の番組もこの時期に放送されることが多いのですが、来年は七十五年という節目の年なのにもかかわらず、こうした番組が全部姿を消す恐れがある。それは、来年のこの時期はオリンピックで、八月九日など閉会式直前で、マラソンの時期です。メディアはオリンピック一色となり、原爆関連の番組など吹き飛んでしまう。テレビの心ある人々はみなそれを心配しているそうです。
 彼女が言うには、この時期に大企画をぶつけてみたい。具体的にはオリンピックとパラリンピックの間に特番をぶつけたいというのです。そして、それは二年西組の再現ドラマを持ってきたいと。私はそれまでオリンピックが、原爆の日にちょうどぶつかるなど考えもせず、伺ってびっくりし、でも、とてもうれしく思ったのです。その女性ディレクターは大体の構成まで作っておられました。彼女は「再現ドラマ」を作ったこともあり、女学校の二年生、まだあどけない(戦時中で、体も小さい)女学生たち、戦中の軍国少女ではありますが、箸が転げてもおかしい年ごろ、その様を描きながら原爆で全滅の悲劇。そしてそれが今に伝わっている(西組の少女たちの甥や姪、一人助かった同級生が戦後中学の教師になり、原爆を生徒たちに伝えた、彼女の教え子たちは今も先生を偲ぶ会をやっている)
 話は繋がっていきます、その中に原爆開発の実記録の映像も入ったら‥‥。
 私は企画がほとんど決まっていると錯覚し、彼女と局の方を前に、いろいろ意見を言ってしまったのです。その後、この企画が正式に決まったわけでなく、彼女の頭の中にあるだけということが判りました。そして、私の言い方が少しまずかったのではないか、など思いましたが、でも、企画の通ることを願い、「再現ドラマ」をどうすれば安く、しかも事実にできるだけ近く作る方法を考えておりました。
 そのうち、予想もしなかった「二年西組」関連の嬉しい出来事が入ってきます。本当に今年、不思議なのですが。以前、劇団大阪の熊本一さんが、彼の指導するシニア劇団で、「二年西組」の朗読劇を意欲的に上演してくださっている話をお伝えしましたが、そうした劇団の一つの方からお手紙が来、十一月三日にある市の平和関係の催しで上演することになったとお知らせがあったのですが、なんとこの公演の中心になっている女性、とても熱心で、一人で広島に行き、関係する建物や登場する地を訪ねたのだそうです。何しろ広島は、昔とすっかり変わっていますので、なかなか場所が判らなかったり苦労されたようです。私、今度、あなたを案内しますよ、などと手紙を書いたのですが、もし、こんな「ご案内」が実現すれば、それも、再現ドラマの一節になるのではないか、など考えました。
 オリンピックと重なる怖さもわかってきました。この間、ラグビー人気が盛り上がる現象があったのですが、あの熱狂怖くなりました。私、スポーツ大好き人間であり、ラグビーはとても面白いスポーツだと思っています。しかし、日本ではラグビーはそれほどの人気スポーツではなかった。しかし、にわかファンが、日に日に増え、熱狂をもたらした。悪いとは言いません。しかし、あのラグビーの間、多くの方は現実の世のことを忘れ、ラグビー一色になってしまった。
 とにかく熱狂しやすい国民性です。これがオリンピックになったらどうなるか。七十五年節目の年なのに原爆のことなど吹っ飛んでしまうのではないか、ニュースの中のひとふし、いやもしかしたらニュース番組さえ吹っ飛んでしまうのではないか、という心配です。ラグビーのあと、世界陸上があったのですが、中継権を取ったTBSは夜のメインニュースも人気のサンデーモーニングも吹っ飛ばしてしまいました。あの、報道のTBSといわれたところが、ですよ!
 そんな状況に、オリンピックとパラリンピックの中間の時期に、素晴らしい原爆企画を立ててくださった、このディレクターの立派だと思いました。
 しかし、その後彼女から局の決定について何も言って来ません、催促しますと十月末になるという話。そのうち十一月になってしまい、だめかとあきらめながら、一縷の希望を持っていたのですが。ようやく来たお返事は企画は却下されたという事でした。
 原爆、核廃絶など「危険な」番組だからか、と思ったのですが。彼女のお話ではもっと恐ろしいことでした。
 原爆の話だからダメというのではない。あの企画は報道を通ったのだから。しかし編成で却下された。それは金の問題だと彼女は言うのです、
 今、日本の経済はリーマンショックの時より悪い、スポンサーも渋い。とても危ない状態、あの企画は金がかかる。ドラマは、金がかかるというのは皆が承知の事実、よほど視聴率よく安定したドラマでないとなかなか難しい。再現ドラマはその中でも金がかかる。特に戦争中の再現ドラマは金がかかる。
 「結局テレビは金がかからないバラエティのような番組ばかりになってしまうだろう」と彼女も悔しそうで、でも「こればかりはどうしようもない。例えば、彼女自身が全財産はたいて作ろうとしたところで、そんな金では到底できない。NHKでしか、こったドラマはできない時代が来るかも」と、なんとも怖いような残念な話でした。
 私も本当に残念ですが、これこそ何ともなりません、「大きな夢」がつぶれました。
 そんなとき、去年も行った川崎市中原区の「平和を願う原爆展」の方から緊急の依頼が来ました。この平和展は一週間もやっておりその中で三日、ヒバクシャの話を聞くコーナーがあり、私も昨年参加しているのですが、今年話をする被爆者の方が急に身内の方が亡くなり、長崎に帰ってしまわれた。とにかく急なことで、間に合わない、あなたピンチヒッターをやってくれと。
 この日、十七日、の日曜日、ちょうどあいているのですね。私、飛んでいきました。
 会場は武蔵小杉です。昔の感じではとても遠いのですが、今横須賀線で鎌倉逗子方面行に乗りますと品川から二つ目であっという間に武蔵小杉なのです。昔の横須賀線の感じですとどうして武蔵小杉か、全くぴんと来ませんが。
 今年の展示は、近頃有名になった、広島市立基町高校の生徒が描いた原爆の絵の展示です。私も何枚かの実物は見ていますが、こんなに多くの原画を見るのは初めてで、戦争を知らない若い高校生がここまで描けたことに感心しました。
 夏にヒロシマに行き学習した小学校六年生の広島原爆についての報告(大きな紙に手書きで)なかなかしっかりかけていまして若い人やるな!
 若い力を感じながら、私も一生懸命に語りました。前に紹介したアーサー・ビナードさんの紙芝居も演じられました。
 もう一つこの原爆展の実行委員会女性ばかりです。展示を貼ったりするの、力仕事で大変でしょうが、頑張っておられます。頼もしいです。
 そこへ、フランシスコ教皇の来日。明快な言葉で、核兵器廃絶を語り、「核抑止論」もはっきり否定、感動しました。安倍首相も教皇に会ったのですが、相変わらず核を持つ国との「橋渡し役」とか、従来の態度を変えず、本当に腹が立ちました。

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