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検証 公団居住60年 №46 [雑木林の四季]

題3章 中曽根「民活」~地価バブルの中の建て替え

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

6.建て替えの法的根拠

 「不当な」建て替え事業から団地居住者の住まいを守る拠りどころ、その争点は、公団住宅建て替えに法的根拠があるのか、戻り入居と定住を保障する家賃制度をどう実現するかにかかっている。
 建物の老朽化がひどく倒壊のおそれがあるならともかく、「社会的に陳腐化した」という理由で賃貸借契約の更新拒絶、明け渡し請求をする正当事由はない。また、公営住宅のように建て替え事業を法律上明確にさだめた実施規定もない。公団が根拠としたのは、大臣承認による「住宅としての用途廃止」の手続き規定(公団法施行規則)と「住宅の建設、賃貸その他の管理および譲渡」の業務規定(公団法)であり、壊すことと建てることの規定が別々にあるだけで、建て替えの根拠にはならない。したがって、そこに住む居住者の地位保全にかんする規定もまったくない。公団の建て替えは任意事業であり、法的根拠はない。これが公権力を背景に「公共性」をかざして強行されるとき、犠牲となる居住者の地位はさらに不安定、深刻な不安に見舞われることになる。
 借家法の正当事由は、生存権的な居住利益の保護から生まれ、居住保障と金銭による解決とは本来相容れないものであるが、1960年代以降、借家人保護の発想から当事者必要度の比較考量に判断の枠組みが移ってきたといわれる。70年代になると、立退き料の交付をもって正当事由を肯定する裁判例が増えてきた(内田要『契約の時代』2000年刊、岩波書店)。つまり裁判所が金銭給付に正当事由のお墨付きを与える時代、カネと権利の交換を認める時代となった。公団も建て替え実施にあたり、その流れにのって、正当事由にかわる措置を居住者に提示してきた。
 ①移転費用の支払い、②移転先住宅の家賃の一定期限減額または一部補填、③建て替え後住宅の優先入居、④仮移転住宅のあっせん、⑤他の公団住宅への移転あっせん。公団が「優遇的措置」というのは、⑥同じ敷地内に新たに併設する分譲住宅の優先分譲、または他の公団分譲住宅のあっせん、⑦世帯分離希望者への2戸割り当て、⑧生活保護世帯等への特別措置、⑨建て替え後家賃の一定期間減額。
 ただし、これらの措置適用は、公団が決めた建て替え説明会から2年間の移転期限内に、これまでの契約を合意解除して借家権を消減させ、一時使用賃貸借契約に切り替えた居住者に限るとし、期限がすぎてから一時賃貸借契約に切り換えても②⑨の措置内容は縮減し、⑥⑦は適用しない、と通告してきた。
 戻り入居を希望する従前居住者にとって最大の関心は、⑨建て替え後の家賃減額措置が、③優先入居を可能にし、定住を保障する内容になるかどうかに向けられていた。
 以上、住都公団があわただしく既存住宅の建て替え着手を決めるにいたった背景とその経過、建て替え実施方針の概要をたどり、この公団事業を居住者はどう見たかを記した。公団の大方針が、実際に居住者自治会・自治協の抵抗にあい、また、やがてすぐバブル崩壊がはじまる状況変化のなかで、どのような曲折を経るかは後述する。


『検証 公団居住60年』 東信堂


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