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東洋文化の原風景 №3

水墨画を描いて(4)中国文化を語る

               水墨画家  傅 益瑶

  ★千年芳薫★
 中国には、千年裁ってもその薫りが変わらないと云う意味の「千年芳薫」と云う言葉がある。
 これは唐の顔真卿の言葉であるが、昔中国では、文章は論ずるものでした。六朝の時代から詩も歌も吟ずる、声をだして語ることがその基本でした。
 文を論ずると云ったこの習慣は中国の社会のなかで、今日まで伝統的に受け継がれてきた長い過去-の歴史があります。
 詩や歌は文字で書き表すより、むしろ理を語る、つまり、論じられたのでした。
 千二百年も前に遣唐使として日本から求法のため中国に渡った慈覚大師円仁は、五台山への巡礼の旅で訪ね歩いた各地の寺院で、仏典や経本を読み解くより、その寺での僧侶たちとの論仏によって、さらに多くの知識を学んで日本に帰りました。日本にもそうした論ずる文化は古くからありました。
 曹洞宗を開き、哲学書『正法眼蔵』を著した鎌倉時代の道元禅師は、その幼年期に興福寺の高僧たちの前で繰り広げられた『稚児論議』に挑んで、論理整然とした意見を戦わせて、居並ぶ大人たちを感嘆させたと云うことが、永平寺の記録に残されています。
  ★文化や文明について★
 私たち人間が良い歴史の中で自然に手を加え、形成した物心両面のいろいろな文化について考えてみると、中国人と日本人の間には文明や文化についての考え方に相違があり、文化に対しての意識や認識の仕方、そしてその伝承のさせ方などに違いがあることに気づきます。
 文化に対する中国人の意識と云うものは、極めて柔軟な考え方によって文化や文明を捉え、、認識してきたことがうかがわれます。股や周の時代に造られた●●●(葦賓文)の青封器が登載されると、専門家達は青銅器よりもその器に刻み込まれた甲骨文字を読み解くことに力を注いで、そこから普遍に広がる文化の背景を探ってきました。また、唐の時代に建てられた建物が、その姿形を今日に残さなくてもその時代に活躍した詩人達の詠った詩が残されていることで、唐の時代のその文化が現代に生きていると認識します。さらに言えば、楚の時代に憂国の情をもって揚子江の泪羅で身投げした屈原の生き方、その精神が、現代に語り継がれていることは、楚の時代の文化や思想といったものが二千年を経
て今日にまで生き続けている、と云う考え方なのです。
 音楽や絵画についてもこれらと同じことが言えます。日本の雅楽は中国から詰来した文化の一つですが、現代の中国にはその雅楽が伝承されていることを見つけ出すことは大変に難しいことです。
 しかし古い文献や敦煌の莫高窟の壁画などを見ると、そこには当時の隆盛した様子をうかがうことができます。つまり中国の文化が日本に伝わり、それらが中国国内で見られなくなったからだと云って、その文化が中国で消滅したと云うことではないのです。
 中国人の文化に対する認識は、心の中に無形の姿形として意識され、伝承されてきていることがわかります。しかし、日本人は中国人と違って文化を即物的に捉える傾向があって、手で触れ、目で確認することができるもの、つまり即物的、感覚的知覚から文化を認識し、有形の姿形によってその多くを今日に伝えてきたことからもその相違を知ることができます。
   ★中国文化の請来★
 日本に伝来した中国文化の多くは、その大半が遣唐使などによって請来された「請来文化」です。
 中国の文明や文化が持っている高い精神性や理念、その中に秘められた美の特徴と云ったものが遣唐使たちによって日本にもたらされたものだと云ってもいいでしょう。なかでも喫茶の作法は、日本人の美を捉える感覚が精神美の一つの世界を形づくり、茶道と云う
ものを確立させています。
 そこには中国の歴史や文化に対する敬意と尊厳、精神的な憧れと云ったものまでの価値観をそのなかに見い出して、まったく新しい日本的な、精神美の形を遣りあげています。喫茶茶の請来と同じく、室町時代に日本へ伝えられた中国の絵画、その中で水墨画は墨による精神的な表現方方法が当時の日本画かたちに大きな影響を与えたことはよく知られています。特に北宋時代を代表する画家の李成や范筧らの描いた厳しい精神に裏付けられた山水画の作法に、雪舟をはじめとする日本の画家たちは大きな衝撃を受けました。水墨画の中に秘められた高い精神の、絵画の本質美を求めて、無限の可能性と云ったものを今日に至るまで探り続けられてきています。このように日本に請来した中国の多くの文化には、生命があり、感情がそれぞれ息づいていますが現代のグローバル化した社会での新しい科学による物質文明に対する認識では、それぞぞれ異なった意識によってそれらの文化と向かい合っています。ことに最近の国際交流では自国がどの分野を重視するかと云う調査では中国が「科学技術」に対しての技術力を性急に欲しがる中国人と、その中に美を追求しようとする日本人の受容形態からくる意識の違いがはっきりと読み取れます。   (日本祭礼文化の会会報)

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