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余は如何にして基督信徒となりし乎 №64 [心の小径]

第十章 基督教国の偽りなき印象-帰郷 6 

                 内村鑑三

 しかしもし基背教国の悪はそのように悪くあるにしても、その善はいかに善くあることよ! 異教国を縦横にくまなく尋ねよ、そして人類の歴史を飾る一人のジョン・ハワードを諸君は見出すことができるかどうかを見よ。余の父は、本書の第二章で余が諸君に語ったように、深い儒学者であり、シナの古人に対する賞賛の念ははなはだ強いのであるが、彼が再三余に語ったことは、彼がジョージ・ワシントンについて知るところからすれば、孔子があらゆる頌徳(しょうとく)の辞を惜しまなかった堯(ぎょう)と舜(しゅん)は、このアメリカの解放者とくらべて無価値であるということであった、そして余の父以上にワシントンについての知識をもっている余は彼の『歴史批評』を全部是認することができる。英雄的行為と心の柔和さ、才能と目的の公正無私、常識とその宗教的確信の熱誠との結合、オリヴ7-・コロムウエルのそれのようなそういう結合は、非基督教的経編のもとにおいては存在を想像することはできない。我々は我が国のお歴々が巨万の富を蓄えてそれを自分自身の『後生のため』に寺に寄進し貧乏人に供養するということを聞いた、しかしジョージ・ピーボディのような、あるいはスチーブン・ジラードのような、与えるために蓄えそして与えることを喜びとしたものは、異教徒の間で観察のできる現象ではない。そしてこのような選ばれた少数者のみならず、もちろん人目には隠れてはいても広く基督教国中に分布していて、特に善人と名づけられてさしつかえないもの — 善をそれ自体のために愛し、人間一般が悪を行う傾向があるように善を行う傾向がある人々-が、見出されるのである。いかにこれらの人々が、用心ぶかく公衆の目に触れないようにしながら、自分の努力と祈祷とによって少しなりとこの世を善くしようと努めつつあるか、いかにしばしば彼らはただ新聞紙で読んだだけでその人々の境遇のみじめさのために涙を流すか、いかに彼らは全人類の福祉をその心に留めるか、またいかによろこんで彼らは人間の不幸と無知とを改良する事業に参加しているか、—こういうことを余は自分自身の目をもって実見し目撃した、そしてそれらすべてのものの底にある純粋な精神を証言することができる。これらの無言の人々こそ、彼らの祖国の危機にはまっさきに自分の生命をその奉仕に捧げる人々であり、異教国における新しい伝道計画を開けば、それを行う宣教師に自分の汽車賃を差し出し、自分はとぼとぼ歩いて家に帰り、自分がそうしたことのゆえに神を讃美する人々であり、その大きな涙もろい心で神の憐れみのすべての秘密を理解し、それゆえに自分の周囲のすべての者に対して憐れみのある人々である。狂烈性と盲目的熱心はこれらの人々には全くない、ただ柔和さと善を行うに当っての冷静な計算がある。じつに余は誠心誠意をもって言うことができる、余は善人をただ基督教国にわいてのみ見たと。勇敢な人、正直な人、正しい人は異教国に皆無ではない、しかし余は疑う、はたして善人が—それによって余はいかなる他国語にもまったく同義語のないジェントルマンという一つの英語に要的されているあの人々を意味するのであるが—、余は疑う、はたしてそのような人々が、我々を形作るイエス・キリストの宗教なくして可能であるかどうかを。『基督信徒、全能なる神のジェントルマン』 — 彼はこの世における独一無比の人物である、筆舌(ひつぜつ)につくしがたいほど美しく、高貴にして、愛すべくある。
 そしてただにそのような善人が基督教国に存在しているばかりではない、基督故国においてさえ善人の比較的に稀れなことを考えれば、彼らの悪人に対する勢力は無限である。善事が異教国にわいてよりもそこではより可能でありより有力であるというこのことは、基脅教国のもう一つの特徴である。『友なく名なき』一ロイド・ガリソンがあって、一民族の自由が彼とともに始まった。一ジョン・B・ゴフがあって、巨大な不節制がよろめき始める。少数はこれらの人々には敗北を意味しない、彼らの憲法はそういう意味のことを含んでいるように思われるけれども。彼らはほんとうに自分たちの正しい立場を確信している、ほんとうに国家的良心を確信している、彼らはかならず国民を自分たちの味方になしうるものと感じている。富者を彼らは畏れ尊敬し感嘆する、しかし善人はそれ以上である。彼らはワシントンの勇よりも徳を、ジエイ・グールドよりフィリップス・ブルックスを、より多く誇る。(じつに彼らの大多数は前者を真に恥じるのである。)正義は彼らには一の勢力である、そして正義の一オンスは富の一ポンドに対応し、またしばしばそれを凌駕(りょうが)する。


『余は如何にして基督信徒となりし乎』 岩波文庫

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