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余は如何にして基督信徒となりし乎 №64 [心の小径]

第十章 基督教国の偽りなき印象-帰郷 5

                     内村鑑三

 五、〇〇〇、〇〇〇の人口を有するニュー・ヨーク州は四〇、〇〇〇、〇〇〇人を有する日本より以上の殺人者を産すると言われている。グラント将軍の日本の観察は、その貧民の数と状態が彼が自国の合衆国で見たところと比較して皆無であるということであった。ロンドンはその貧民の割合の大ききで、そして基督教国は一般にその賭博と飲酒癖とで、よく知られている。これらの人々の欲望を満たすことのできるアルコール飲料のうちには、相当の量を取れば、我が国の酒飲みの頭を顛倒(てんこう)させるだけ強いものがある。基督教国の大都会の或るものの裏町の光景は、慎(つつし)みある人は誰もあえてのぞきこむことさえしないのであるが、それはいかなる国語でも最劣等の言葉より穏やかな言葉では記述され得ない光景である。恥知らずの賭博(とばく)、白昼の海賊行為、自分自身の勢力拡大のためにする同胞の冷酷な犠牲が、そこでは巨大な事業のような規模で行われつつある。憐れみをもって異教徒を眺め自分の基督教文明の祝福された状態をたたえる諸君は、はっきり目を開いて諸君の国の慈善家の一人から余の耳に達した次のことを読まれよ、---
 基督教国のうち最も基督教的な国の一つのその首都の郊外に一老夫婦が沈黙のうちに暮していた、外見はこの世の幸福を楽しんでいるようであった。彼らの豊かな暮しの原因は依然として彼らにだけの秘密であった。もっとも一つ変な事があった。彼らはストーヴを一つもっていたが、それは外形はどう見ても彼らの煮たきのためにはまったく大きすぎるものであった、そして煙突は遅く誰も食事をするものなく人がみな眠りにつく夜の静寂の中に煙をはいた。奇妙な小さな家はその都市の英雄的な一婦人の注意をひいた、彼女はこの世の暗い物事を追求するとき、その鋭い女らしい本能にきわめて実践型の機智を兼備した人であった。彼女は実情を注意ぶかく静かに調査した。証拠につぐ証拠が手に入った、そしてこの上の懐疑(かいぎ)は不可能になった。ある暗夜、彼女はその筋の官憲とともにその家に踏みこむ。ストーヴが嫌疑(けんぎ)の目的物である。彼らはそれを開ける、そして何を諸君は彼らがそこで見つけると思われるか。老齢を喜ばせる無煙炭の燃えさしか。否、恐ろしくも恐ろしいもの! 人間らしい物がそこに! 柔軟な嬰児(えいじ)たちが焼かれつつある! 焼き賃一個二ドル! 二十年間煩わされずにこの商売に従事した! それですっかりひと財産をこしらえもしたのだ! 何のためにこの恐ろしいことが? 不運な嬰児を生れさせる恥辱を隠蔽(いんぺい)し絶滅させるために! その都市もまた私生児でいっぱいである、老夫婦の商売の繁昌(はんじょう)はそのためである! そして余の語り手は続けて言った、『あのかわいそうなもののうちには、この世に生れて来たのは………………のためであるものがあっても、驚くにはあたらない』(恥辱につぐ恥辱よ)—
 基督教国にもまたモロク礼拝! インド神話をくまなく記録して人の想像のなかにジャッガノートの恐怖を創り出す必要は何もない。異教のアンモン人たちはその幼児をはっきりした宗教上の目的をもって犠牲にささげた、しかしこれらの魔女たちにはあの『一個二ドル』以上に何の高い目的もないのである。確かに諸君のところには『異教徒がその戸口に』いるのである。『基督故国は獣的な国である。』そう報告するものが我が国人のうちにある、彼らは外国を旅行してその暗い半面だけを見た人たちである。なるほど彼らは不公平ではある、しかし上述の獣性ということの関する限りでは彼らの受けた印象は正確である。異教国は基督教国とその獣性においてもまた競走することはできない。 ′


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