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私の中の一期一会 №163 [雑木林の四季]

        今、一番観たい映画は「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で
  ~報道機関には、「政府のウソを突き止めて国民に真実を提供する役目がある」~

                      アナウンサー&キャスター  藤田和弘

 スティーブン・スピルバーグが監督した映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」が面白そうだ。
 だいぶ前に映画館で予告編を見た時から、「これは絶対観るぞ!」と心に決めて一般公開を心待ちしていた。
30日に映画は公開されたが、この原稿を書いてからでないと落ち着かないので、4月早々に観ようと思っている。1971年頃のアメリカを舞台にした実話の映画化である。
 監督がスピルバーグというのにまず惹かれたが、トム・ハンクス、メリル・ストリープという二人のオスカー俳優が主演というのもいい、楽しみだ。
 「ペンタゴン・ペーパーズ」とは“泥沼と化したベトナム戦争(1960年~1975年)を分析して記録したアメリカ国防省(ペンタゴン)による報告書で、最高機密文書に指定されてきたものだが、2011年6月13日に機密指定が解除されている。
 7000枚に及ぶ膨大な量の報告書だそうだが、当時のアメリカ政府はその存在すらひた隠しにしてきた。
何故秘密にしなければならなかったのか? 国民に知られたくなかった衝撃の事実とは一体何か?・・
 強大な組織ペンタゴンにも内部告発者がいて、報告書の執筆者の一人が“全文をコピーして”ニューヨーク・タイムズのエース記者ニール・シーハンに手渡したことから、ベトナム戦争の政府秘密文書は暴露されることになった。アメリカ政界を揺さぶった実際の事件である。
 映画をまだ見てないので、新聞などに紹介されている“あらすじ”を読んでみることにした。
 機密文書が流出してニューヨーク・タイムズがその内容の一部をスクープした。ライバルに先を越されたワシントン・ポストの女性発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン ブラッドリーは、残りの文書を独自で手に入れ、全貌を公開しようと奔走する。 
 彼女らは真実を伝えたいという気持ちを駆り立てるのだが、時のニクソン政権があらゆる手段で記事を差し止めようと圧力をかけてくるのは明らかだった。政府を敵に回して、本当に記事に出来るのだろうか・・
 スクープしたニューヨーク・タイムズではなく、ライバルのワシントン・ポスト紙に焦点を当てて描いた映画である。
  財務省の公文書改ざん問題では、佐川尋問でかえって疑惑を深めた国民が多いのではないか。
 官僚に責任を押しつけて“逃げ切ろうとする官邸”の浅ましさ。
 血迷ったとしか思えない“新聞批判の失言”で、危機意識の欠如を露呈した麻生財務相。
 沈みゆく船には碌な乗組員がいないとつくづく思う。
 こうしたタイミングで、「ペンタゴン・ペーパーズ」が一般公開されるなんて、何とも皮肉な感じがする。
 映画好きの藤原帰一東大教授もあの時代、アメリカ政府は戦争の実態(真実)を国民に伝えていなかったのは知っている。ニクソン政権は実態を隠して戦争を続け、泥沼状態になっても“うまくいっている”とウソの発表を重ねていったのだ。
 PKOの日報で「戦闘」を「衝突」と言い換え、文書は残っていないと防衛省に虚偽の答弁をさせて実態を隠蔽した女の防衛相がいた記憶が蘇ってくる。
 この映画が2017年につくられた背景には、トランプ大統領の登場があると藤原教授はみている。
 大統領が“フェイクニュースだ”などと高飛車に悪口雑言をマスメディアに浴びせながら、歴然としたウソを並びたてている。
 そんなトランプ大統領を前にして、マスメディアは政府のウソを暴くことが出来るのだろうか・・・
 事あるごとに執拗に朝日新聞を“誤報メディア呼ばわり”して叩いてきた安倍首相が、その朝日新聞に反撃を食らって、今追い詰められている。
 トランプ大統領のアメリカばかりでなく、日本でもニュースの信頼性が薄れる世の中になった。
 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」という映画は、「報道機関には、政府のウソを突き止め、本当の事、“真実”を国民に伝える役目があるのだ」というジャーナリズムの原点を思い出させてくれる映画のようである。現代の日本に通じる大事な課題と言えるだろう。
 ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンが主演した「大統領の陰謀」はウォーターゲート事件の真相を暴き、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ二人のジャーナリストの回想録を映画化したものであった。新米記者が先輩と組んで事件の調査にあたり、真相に迫っていくストーリーである。
 私は友人が貸してくれたDVDでこの映画を見たが、二人の記者が打つタイプライターの音が響く中で、“ニクソン辞任”のニュースがテレビから流れるラストシーンを忘れることが出来ない。
ウォータゲート事件は“ディープ・スロート”という謎の情報提供者から助言を得て調査が進んでいく。
 「誤報」という失敗もあった二人の部下に、「家に帰って15分休んだら仕事に戻れ」とミスを攻めなかったワシントン・ポストの名編集主幹ベン・ブラッドリーが、今もなお健在だと聞いて嬉しい気がしたのは何故だろう。現在83歳というから私と同年代なのも奇遇に思った。
 ベン・ブラッドリーは森友問題をどう見るだろうか?批判するメディアを敵視する政権をどう思うかも聞いてみたいものだ。
  アメリカ史上最大の政治スキャンダルと言われた「ウォーターゲート事件」は、相手が大統領といえども権力には屈しないという内部告発者がいたから、悪質な大統領を辞任に追い込むことが出来たのだ。ワシントン・ポストは、「国民に真実を提供する役目」を立派に果たしたと言えるだろう。
 財務省が行った決裁文書の改ざんは、国家の歴史を改ざんしたに等しい許し難い大罪だと言っても過言ではない。
日刊ゲンダイなどは、文書改ざんの事実だけで“内閣総辞職が当たり前”だと書いている。
 国会審議の場に政府に都合のよい偽造公文書を提出してきたのだ、与野党を問わず国民の代表を政府は欺いたに等しいのである。
 国民が今一番知りたいことは、「何故、役所にとって神聖な筈の決裁文書を改ざんしたのか?」という1点に尽きる。
 愛知大学の樫村愛子教授が、毎日新聞の夕刊「特集ワイド」で、英フィナンシャル・タイムズ紙のロビン・ハーディング東京支社長が「政治家がウソをつくというのは世界共通の『常識』だが、官僚が自主的にウソをついたとなると理解されにくい」と述べたことを紹介している。
 欧米先進国やアジア諸国と比べても、日本が文書管理への関心が低く、文書の重要性が十分認識されていない」と批判したとも書いている。要するに、国としてのレベルが低いとみられているということだろう。
 福田康夫元首相は、公文書の保存と管理の法制化を進めた人で、昨年9月に朝日新聞のWEB版のインタビューに「事実の集積が国家だ」と答えている。
 公文書は不当な政治の介入を排除し、役人を守るものだと話し、政権の不当な要求があっても「それは出来ない。記録に残りますよ」と言えばよいのだと語っている。
 27日に行われた佐川宣寿前理財局長への証人喚問は、見ているこちらが恥ずかしいくらいヒドイものだった。
 尋問では「誰が、どういう経緯で、どのように指示して改ざんが行われたのか」を全く答えておらず、真実は何も明らかにならなかった。
 与党の尋問が出来レースになることは予想されたこととはいえ、丸川珠代議員のヒドさは論外であった。
 「理財局に対して安倍総理からの指示はありませんでしたね?」
 「ございませんでした」
 「安倍総理夫人からの支持もありませんでしたね?」
 「ございませんでした」・・・と、すべて尋問というより確認に終始した。
 最後に「総理夫人、官邸の関与はなかったという証言が得られました。ありがとうございました」と言って締めくくったのには呆れてしまった。
 この日のSNSには「茶番だ」、「国民は納得しない」、「最低だ」など批判が殺到したのも無理はない。
元官僚で作家の佐藤優氏が「悪の正体」という面白い文を書いている、以下はそのほんの一部である。
 『ストーブに火をつけたい時「スト-ブに火をつけてくれ」とは言わない。「寒いね」というだけで信奉者は“ストーブに火をつけなくちゃ”と忖度する。
 命令も要請もせずに人を自在に動かす。権力における自らの優位性を手放さない。そんな人物には気を付けた方がいい。これこそ典型的な悪の技法にほかならない』
 文書の改ざんを指示しないのに、財務省が勝手に“書き換えなくちゃ”と忖度したとしたら。
 “悪の技法に他ならない”と言ってもいいだろう。


【お詫びと訂正】
「ワシントン・ポストのの編集主幹ベン・ブラッドリーが83歳でまだ健在」というのはとんでもない間違いでした。
ブラッドリー氏は2014年に93歳で亡くなっていました。
参考にした資料は2005年のもので、当時83歳だったのを同年代でまだ健在だと勘違いしました。
報道の自由についてどう思うか訊いてみたかったのは変わりません。
間違えたことをお詫びします。     藤田和弘


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笠井康宏

藤田さん、こんばんは。証人喚問から逃げて自殺すると思っていた佐川が出てきましたが、自己保身に終始しましたね。丸川珠代は「お前は元アナウンサーだろ?もっとまともな質問をしろ!このバカ!」と生中継を見ながら思いました。今のアナウンサーは非常に低レベルで、藤田さんに比べたら雲泥の差があります。国民の苛立ちは溜まりますよ。
by 笠井康宏 (2018-04-08 23:30) 

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