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出あい、こぼれ話 №42 [心の小径]

 第41話 ことばの典型

                                   教育者  毛涯章平

 いつかテレビの人気番組『男はつらいよ』を見ていた時である。
 主人公の寅さんが旅から帰って、恋の病で二階で寝ているところへ、妹のさくらが、粥を作って、自分の子どもに持って行かせる場面があった。
 さくらが言う。
 「いいかい、おじさん病気なんだから、『お加減いかが?』って言うんだよ」
 子どもは言われたとおり寝ている寅さんの前にお膳を出して、
 「おじさん、お加減いかが?」と、はっきりと言った。
 これは、ちょっとした短い場面であったが、わたしは見ていて、はっとしたのである。
 ここでは、日常生活の中で、母親が子どもに、その場に応じた『ことばの典型』を、はっきりと見事に示しているのである。
 こうやって、正しいことばづかいが、その場に応じて使えるように身についていくのである。
 家庭や学校で、その場に応じた『ことばの典型』を示していくことは、母国語を正しく使い、言語感覚を磨くうえに、とても大切なことと言われている。
 とくに敬語や謙譲語は、いつも身近で大人が正しく話していると、子どもがそれにふれる機会が多くなって、いつのまにか自然に身についていくものであると言われている。

 私が子どもの頃、家に祝い事があると、よくおはぎを作った。それを近所に配るお使いに行く時、母が、
 「『不出来なものだけど、おあがり下さい』と言って出すのだよ」
と、『典型』を教えてくれた。
 私はそのとおり言って出した。
 今、お使い物に『粗品』と書くとき、母が教えてくれた、あの「口上」を、なつかしく思い出すのである。


『章平先生の 出会い、こぼれ話』 2015年豊丘村公民館会報


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