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余は如何にして基督信徒となりし乎 №15 [心の小径]

第三章 初期の教会 8

                                             内村鑑三   

 十二月廿四日 クリスマス前夜 測量術ノ試験。「エドウィン」ト共二夜ノ準備二多忙。
 集会ハ午後七時二始マレリ。全基督信徒一体トナリテ出席セリ。午後十一時マデ食事ト茶菓ト雑談。我等ノ愉快限リナシ。

 我々の上級生はクリスマス祝祭に今年は我々に合同した。記念祭は去年よりも大規模に行われた。学校は我々に復習講堂を貸してくれ、我々はそれをうまく装飾した、そして十分の寄附が為されてこの祝祭を本当に楽しいものとした。白と赤の『達磨(だるま)』の角力(すもう)があった、そして赤の方は上級生ジョン・Kによって非常に巧みに着附けられていた。『角顔』Yが身をせるめてその姿になったのであるが、それがはじめ現れたときは誰もそれは『眼あれども見ず耳あれども悟(さと)らざる』普通の人形にほかならないと考えた。突如としてしかしその眼が動き始めた、『足なし達磨』が自分の足で立ち上った、二本の腕が両脇から突き出された、そして全身が踊り始めた。そこへ白い達磨が出て来て彼と相対した、そして二つがヨナタンの行司で角力を取った。ああ、何と滑稽
だったことよ! 彼らが退場するや、現れ出たのは一野蛮人、腰のまわりのほかは裸であった、そしてそれこそは基脅信徒のあいだの最長身者、最年長者としてつねに宗教問題の我々の指導者と自きれていた『長兄』Sにほかならなかった。彼はこの恐ろしい身なりで踊って、退場した。我々は横隔膜がほとんど敗れてしまうまで笑った。我々は我々の救墟主が我々を救うために地上に降りたもうたほど喜んだ。四百年前サヴォナローラはフローレンスにかような聖なるカーェヴブルを制定した、そして修道僧たちは歌いながら踊った、
   『熱と愛と情をもて
   かくキリストの聖(きよ)き狂喜をいだく
   かくも快き嬉しさ、
   かくも清き力づよき喜び、かつてなし。
   叫べ我と、我が叫ぶどとくいま叫べ、
   狂喜、狂喜、聖(きよ)き狂富†』


  十二月廿五日 十時半二集会。我々ノSニ来リテ以来最大ノ愉快(聖ナル)。

 これは真の感謝の集りであった。茶も菓子もこの集会にはなかった。あったのは祈りと真面目な話であった、『長兄』Sが集会を退いた。『宣教師坊主」Oはスリスマス祝祭の歴史と、存在理由についての話を我々にした。じつに誰もみなその朝は真面目であった。ニュー・オーリーンズでは断食と痛梅をともなう四旬節は野蛮きわまる謝肉祭によって先行されると開いた。ただ我々はルイジアナ人ほどには耽溺(たんでき)しなかっただけである。

 この間これ以上何も記入されず、つぎの日にいたる、
 一八八〇年三月廿八日 日曜日 集会ハ興味大イニ減ズ。

 我々はしじゅう自分自身を白熱状態に保つことはできなかった。じつにこの年の春じゅう我々の熱心には決定的な弛緩状態があった。時には会員間の或る些細な事件が全『教会』の平和と調和を乱したことがある。かって我々は祈りのなかで何か『あてこする』ことを言いながら顔を壁に向けて祈ったことがある、もちろん天にいます我らの父によってではなく、その言葉が目指している人によって開かれるためであった。しかしこういうすべてのことにもかかわらず、我々は『我らの集り』をやめなかったのである(へブル十の廿五)。

 六月は宗教的に我々には多忙な月であった。我々は新生第二年記念日を例の歓喜をもって祝った。雪は解けてしまい、好天気が始まって、我々ひきつづき三人の宣教師―アメリカ人一人、イギリス人二人―から訪問を受け、我々の飢えた霊魂は説教とその他の宗教的教訓の十分の供給で養われた。隣りの海港にいるイギリス領事U氏(The Hon.Mr.U)がまた当地にあり、彼が滞在していた家でこれまで我々が目撃したもっとも壮大な規模で聖公会の礼拝が挙行された。その礼拝が少年たちに与えた一般的印象は、それがやや『仏教的』であるということであり、その祈祷書と法衣は宗教のことは単純なるべしという我々の考と必ずしも全く一地するmのではなかった。この礼拝中のいちじるしい事件は、わが半異教徒的な『好人物』U、『翼竜』T、および何人か他のものが、二人のイギリス婦人がその唇を接触させてたがいに挨拶するのを見て大きな声で吹き出したその振舞いであった。我々は聖書でレバンが如何にその息子や娘に接吻したかを読んだが、しかしこれまで実際に接吻しているのを見たことはなかった。我々の不行儀はじつに申訳けなくあった。

『余は如何にして基督信徒となりし乎』 岩波文庫


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