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徒然なるままに №14 [雑木林の四季]

カラスは、何故嫌われるのか

                     エッセイスト 横山貞利

   小鴉(こがらす)に鳴く声太し親鴉  高橋淡路女
   小鴉の母呼ぶ季月夜かな       内藤鳴雪
   考えて一尺飛べり鴉の子       石塚友二

 2年前の初夏の夕暮れのことだった。ベランダの10mほど先にある小さな公園からカラスの鳴き声が間断なく聞こえてくるのでベランダのガラス戸を開けてみたら地上にやや小さめのカラスが高さ70㎝くらいの植木の支え柱に何度も飛び跳ねながら羽ばたいていた。植木の上の方には親カラスがいるらしく、しきりに「カーッ、カーッ」と鳴いて励ましている光景が目に入ってきた。しかし、子ガラスはなかなか植木の支え柱に登れないでいた。妻と二人で1時間半くらい見つづけていたが、その間もなかなか跳びつけず「ガンバレ」と低い声で応援している自分に気がついた。少しずつ夕闇が近づいてきたところで妻と二人して一寸ガラス戸から離れて一服していると急にカラスの鳴き声が聞かれなくなった。慌ててベランダのガラス戸を開けてみると子ガラスが見えない。どうしたのかと10分くらい覗いていたがカラスの親子の動静はわからないまま暗くなってきたので見るのを止めてしまった。きっと、親ガラスが子ガラスを手助けして無事に塒に帰ったのだろうと妻と二人で話しあった。いまになって想い出すと、あの時は何だか祈るような気持だったよう気がしてならない。
 また、昨年暮れのことだがカラスが針金で遊んでいた。その針金はクリーニング店で洗いあがったワイシャツなどを吊るして返してくれるあの針金である。カラスがその針金を嘴(くちばし)で咥えては放り上げて遊んでいるのを見たとき「なんと器用なんだ」とつくづく感心した。カラスの巣の写真などを見ると木の股などに巣を作っているが、その巣には枯れ枝に混じってクリーニングの針金を上手に使っているので感心する。
 こんなことを見るとカラスは高い知能をもっているばかりか、親子の情愛が細やかな鳥であると考えざるを得ない。実際に調べてみと、わたしたちが普段見ているカラスはハシブトカラス(嘴太烏)が多いが、このハシブトカラスは鳥類の中で最も知能が進んでいて、人間の個体を識別して覚えているそうである。また、ハシブトカラスは一夫一婦性で、春から夏にかけて2~5個くらい卵を産み20日前後抱卵して孵化させる。そして夫婦は協力して子育てし、30~40日後に巣立ちするそうである。
 食物は雑食性でよく農作物などを食い散らして荒らす。またゴミなどを漁って肉や魚、パン屑ずなどの残り物をつついて食べちらして嫌われている。そして人間の個体を識別できるので、嫌がらせをした人の後ろから頭を蹴ったり髪を毛を引っ張るたりしてする。でもそうした行動をするカラスは全体の10数%に過ぎないそうである。

 ところで、カラスの童謡といえば「夕焼け小焼け」(詞:中村雨紅、曲:草川 信)、「七つの子」(詞:野口雨情、曲:本居長世)などを想い出す。また、カラスの諺が沢山ある。「カラスの行水」、「カラスの足跡」、「カラスの髪」、「濡れガラス」、「闇夜のカラス」、「三羽烏」、「烏合の衆」、「カラスが鳴くから帰ろう」、「カラスが鳴かぬ日があっても・・・」等々、わたしたちの日常とかかわっていてよく遣われていている。それほど身近な鳥で古来から親しみやすい鳥であったことを示している。

 ところで、サッカー日本代表のユニフォームのエンブレムは「八咫烏」(やたがらす)である。「八咫烏」は神話に出てくるカラスで「神武東征」のくだりで熊野国から大和国まで導いた神の使いであるそうだ。「八咫烏」は三本の脚があり、それぞれ「天」、「地」、「人」を表している。その「八咫烏」がサッカーのエンブレム(シンボル)に採用されたのは「天武天皇が熊野で蹴鞠をよくした」ということで「蹴鞠」をサッカーになぞらえて用いたのだそうである。何とも象徴的であるが何だか神頼みのような気もする。しかし、2月11日の「建国記念の日」が神武天皇が橿原の地で即位したという神話に基づいて指定されたことを考えれば「八咫烏」がエンブレムになってもいいのかも知れない。

    荻原朔太郎 「虚無の鴉」  
 我れはもと虚無の鴉
 かの高き冬至の屋根に口を開けて
 風見の如くに砲号せむ。
 季節に認識ありやなしや 
 我れの持たざるものは一切なり。

  三好達治  「鴉」
 静かな村の街道を 筧が横に越えてゐる
 それに一羽の鴉がとまって 木洩れ陽の中に
 空を仰ぎ 地を眺め 私がその下を通るとき
 ある微妙な均衡の上に 翼をおさめて 秤のやうに揺れてゐた


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