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コーセーだから №18 [雑木林の四季]

山口眞理子さんの詩集のこと

                                  (株)コーセーOB  北原 保

 私の親しい知人がこのほど詩集を出版したので、今回はコーセーの話をお休みさせていただいて、その詩集についてご紹介しようと思います。

 詩集を出版したのは山口眞理子さん。何年か前に、私が江東区の東陽町で営んでいる整体院のお客さまとして来店され、ご自宅が近かったこともありますが、それ以来親しくお付き合いさせていただいている方です。
 彼女は早くから詩が好きだったようで、15歳という若さで詩集を私家版として出版されました。その後、何冊も詩集を出版されていますが、このほど思潮社の「現代詩文庫 228」として「山口眞理子 詩集」(1300円+税)が発売されたのです。
 その中から「風水」と題された詩をご紹介します。

  いつからかどこからか吹いてくる風に
  水が混じっている
  それはわたくしの心 内部のことである
  〈湿度〉ではない
  いつの頃からか そこは乾いており
  生きていくうちに沈んでいった
  〈乾燥〉を急いだのでも好んだのでもない

  いつからかどこからか あたり前の様子でくる人
  くる人に 唇の水を含んであげられるか
  わたくしの水はしかし〈湿度〉ではない
  わたくしの水は一滴一滴 確かな水であって
  塩辛いこともある

  時間軸ですきなように折りたたんでみると
  りぼんが風に揺れるみたいで

  いつからかどこからか吹いてくる風に
  水が混じっている 水が作る

  あっ それは 水でできたりぼん

  気流にうまくのればやがて着地する
  どこかのそこがわたくしの雨が求められるところ
  どこかのそこがわたくしを与えるところの
  唯ひとつの〈場所〉


 この詩は、2006年に発行された「詩集〈深川〉」に収録されている一篇です。この詩の他にも、彼女は川や水に関係する詩を数多く作っています。
 それは、彼女が東京の中でも深川地区と呼ばれるところに住むようになって永いことも影響しているのかもしれません。
 深川は江戸時代から富岡八幡神社の門前町として栄えた下町で、曲亭馬琴や平賀源内、松尾芭蕉、伊能忠敬など数多くの文人や知識人が住んでいたようです。また、江戸城や日本橋にも近く、船で荷物を運搬するために掘割が縦横に張り廻られていました。木材問屋街で知られる木場も深川地区の中にあり、材木商のほとんどが新木場地区に移転した現在ではその面影もありませんが、それでも川や橋はいたるところに残っています。

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18詩集裏表.jpg

                                                                           1991年に出版した詩集〈そして、川〉は

  むかし 深川と呼ばれていた界隈へ越してから
  日曜日の夕方は 百円ライターとキャスター
  一万円札を一枚 尻のポケットに
  ねじこんで 散歩に出かける

  最初の四つ辻に立つと もう
  そこには この町の風情がたちこめている

  〈匂いで分かったのでしょうか? あの方に〉
  よく熟れた桃みたいな 湯上りの女の人の
  ささやきが 風にのって運ばれてきた(気がした)

  いまよりも夜が もっと暗くて深かったころは
  いまよりも僕は もう少し若くて
  ――白い花の名前を教えて 歩いた
  せっかちな初夏はすぐいってしまう
  翌週には じっと
  〈待っているふりをしても
  そんなに 待ちはしないのよ〉

  夜 散ってしまった木に咲く花の姿は ただの 投影だ

  十何年も使っている 中里隆さんの
  三島の大鉢は 乾いた固い地面に
  白い花びらが重なりながら散った様子で 硬質で甘い
  甘くて やさしくて
  抱きしめると どこかへいってしまいそうな

  ――幻の花をみた(気がした)

  汗が 涙が 流れるように全身を浸して
  路地にいったん 入りこむと
  どの家も 玄関の前は
  しどけなく 官能をふりまいて
  思い思いの風雪に 耐えた 花と植物 であふれている

  〈見るだけで お分かりになった気でいらっしゃるの?〉
  ささやきが風に 運ばれてくる

  ここで暮らしているって ことは
  ――そうさ!
  街のはずれからすみまで いくつもの川をわたって
  散歩する そういうことなんだ


という詩で始まっています。
 巻末で作品論を書かれている方も、彼女のことを、川の詩人、と書いています。また、山口眞理子さんは、最近は同人誌「gui」に「深川日誌」と題したエッセイを連載しています。あまり彼女の作品について解説を加えても意味がないと思います。できれば多くの方にこの詩集を手に取ってみていただきたいと願うばかりです。

 最後に、もう少し山口眞理子さんについて解説しておきたいと思います。彼女はもう25年以上にもわたって、銀座7丁目で「クラブ マリーン」を経営するオーナーママでもあります。海が好きなのと、ご自分の名前から「マリーン」という店名にされたそうです。ママが詩人であるため、同人の方や詩に関係するお客さまも多いようで、辻井 喬さん(元西武百貨店社長 堤 清二)もいらっしゃっていたということです。
 もう一つ、彼女には占い師としての顔もあります。「天壽まり」の名前で易占いを行っていますが、良くあたる銀座のママ占い師としての評判を得ていますし、個別指導に近い形で易学勉強会を開催するなど、精力的に活動しています。写真の「幸せのつくり方」は彼女が2010年に駒草出版から出したわかりやすい易の本ですが、新しい易の本も執筆中とのことです。

18幸せのつくり方.jpg

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