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多摩のむかし道と伝説の旅 №1 [ふるさと立川・多摩・武蔵]

多摩のむかし道と伝説の旅

                                              原田環爾

 過去のある時期に、政治的、軍事的、経済的、文化的に大いなる意味を持った道筋を筆者は「むかし道」と呼んでいます。多摩のむかし道に興味を抱き訪ねまわること20年。道筋の風景を楽しむとともに、沿道の社寺、路傍に佇む石仏石塔、訪れた土地の山や丘、谷、橋や坂道などに付せられた奇妙な名称に出会うことで、その背景にある道筋の歴史や伝説に思いをはせてきました。多摩とその周辺にはそんなむかし道がいくつも残されているのです。筆者の実踏経験の中からいくつかを時代を追って順にご紹介します。

小山田丘陵.jpg 最初に古代のむかし道の例として「防人の歩いた道」や「西多摩の将門伝承路」などがあります。「防人の歩いた道」とは、徴兵された防人達が府中に集合した後、役人の先導で徒歩で北九州へ向かった道です。多摩丘陵には彼らが歩いたと思われる道筋が幾筋も残されています。一方「西多摩の将門伝承路」は、そのひとつとして日の出町大久野の勝峰山で藤原秀郷(俵藤太)と戦って敗れた将門が、山を下って岩井の将門坂、水口、梅ヶ谷峠を経て青梅の金剛寺へ敗走したという伝説です。金剛寺には青梅の地名の由来ともなった将門誓いの梅があります。それにしても将門が実際に活躍したのは筑波山麓であるのに、日の出、青梅、奥多摩など西多摩に将門の伝承地が沢山あるのは不思議なことですね。

 中世のむかし道と言えば「鎌倉道」と「古甲州道」です。まずは「鎌倉道」ですが、多摩を通る主要な道筋には上ノ道と山ノ道があります。上ノ道は新田義貞の鎌倉攻めの道としてあまりにも有名です。一方山ノ道は上ノ道のバイパスでとてもローカルな道筋です。上州から秩父、名栗を経て青梅鎌倉街道山ノ道.jpgに入り、八王子を経て町田で上ノ道に合流しています。この道筋には多摩に生きた悲運の武将の物語が多く残されています。青梅辛垣城主の三田綱秀、滝山城主大石定久、八王子城代横地吉信、それに武蔵武士の鑑と称えられた畠山重忠、いづれも非業の最期を遂げています。一方「古甲州道」というのは戦国時代以前の古い甲州への道筋です。現在の甲州街道とは大きく異なり、日野から滝山街道、秋川丘陵、檜原街道を経て檜原に至り、浅間尾根を通って小河内に下り、大菩薩を経て甲州へ向かっていました。


伝馬道.jpg 近世のむかし道としては「伊奈道」「御用白土伝馬街道」「甲州道中」などがあります。「伊奈道」とは、武蔵増戸辺りは古くから伊奈と呼ばれ、横沢入の天竺山周辺に良質の砂岩が産出することから、信州伊那谷の石工が移り住んだと言われています。彼らは切り出した伊奈石から墓石や石臼等を生産することを生業としていました。時代は下って徳川家康が江戸に入府すると、江戸城を修築するとして、その腕を買われた石工達は伊奈と江戸との間を往還した。その道筋が伊奈道と呼ばれるようになった。しかし西隣りに新興した五日市との市競争に敗れて没落し、伊奈道はいつしか五日市道と呼ばれるようになりました。一方「御用白土伝馬街道」とは、同じ頃、江戸城修築に必要な白壁の漆喰材料として青梅成木の石灰が江戸へ運ばれました。その道筋が御用白土伝馬街道です。成木から千賀村、笹仁田、赤坂などの峠を越え、青梅新町を経て箱根ヶ崎に至り、そこから武蔵野原を突ききって江戸へ向かいました。これは後に青梅街道として整備されました。「甲州道中」についてはよく知られている通り、日本橋を起点に整備された五街道の一つです。ただ裏高尾から小仏峠を越えるなど、現在の甲州街道とは異なる箇所がいくつもあります。

絹の道.jpg 最期に幕末から明治にかけてのむかし道として、「絹の道」や「筏道」などがあります。「絹の道」は浜街道とも浜道とも呼ばれています。八王子鑓水の商人達が仕入れた生糸を馬の荷駄、あるいは自ら背負って峠を越え、町田街道、八王子街道、旧甲州街道、横浜道を経て開港場横浜まで運び、弁天通りの生糸売込み商人に売り渡すと、帰路は珍しい西洋の文物を持ち帰り、文明開化の伝播に大きな役割を果たした交易の道筋です。しかしながら急速な鉄道網の発達でわずか50年で幕を閉じたのです。一方「筏道」は筏師が歩いた道です。帝都の旺盛な建設需要に、青梅や奥多摩で伐採され材木が筏に組まれ、筏師の巧みな筏さばきで多摩川を下った。終着点大田区六郷で木場の商人に引き渡すと、帰りは徒歩で家路についた。蓑笠をつけ、長い竿を持って家路を急ぐ異様な姿は人々の印象に残ったのであろう、彼らが歩いた道筋は筏道と呼ばれ、世田谷、狛江、調布、府中にその名をとどめています。

 他にも「国分寺瓦の来た道」、「奥州古道」、「義経伝承路」、「深大寺道」、「案下道」、「玉川上水水辺の道」、「陣屋道」、「千人同心街道」、「相原七国峠古道」、「御殿峠古道」、「戦車道路」などまだまだ多数のむかし道があります。筆者の実踏経験はすべて下記ホームページに挙げていますので参考にしていただければ幸いです。
[参考] 多摩のジョギング道 http://homepage3.nifty.com/k_harada/


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