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シニア熱血宣言 №78 [雑木林の四季]

終活のライセンス

                                      映像作家  石神 淳

  東日本大震災から5年。三陸海岸の被災地では、津波に襲われた市街地のかさあげ工事が、復興の象徴の如く行われているが、あのピラミッドのような新開地と高い堤防工事そして緑の畑を貫く黒いフレコンバッグの山を眺めると、ほんとうに被災者個々の新しい再出発に繋がるのかどうか。そして、原発事故立入禁止区域での除染作業を、目の当たりに旅してきた立場としては、いったい誰の為の復興なのか、正直言って疑問でならない。被害者の暮らしの周辺で、まだまだ、手を差し伸べねばならぬ事が、それこそ山積みされている。

_除染作業中の集落DSC0514.jpg

                                 汚染地のフレコンバックの山

 あからさまに言ってしまうと、行政と東電のやっていることは、復興を時の流れに委ねた「時間稼ぎ」で、被災者の足を引っ張っているようにしか思えててらない。振り返れば、広島や長崎の被爆も、チリ津波の被害も、被災者の住民たちが、血と汗で復興をなし遂げたではないか。
 現代社会では高度化した社会機能が、ともすると被災者の心を蔑ろにしているように思えてならない。強者は益々強く、弱者は復興や変革の名目で、魂を抜かれている。
 規制緩和も介護法も、結果として、弱き者が自由を奪われ、行政の意のままに服従させられているのが現実だ。ふと気付くけば、年金は役人の無駄遣いで減額され、老人は自宅介護を余儀なくされている。介護認定されていない後期高齢者は、政府が勝手につくった制度の枠のなかで、明日が見えない暮らしをしている。 
 歴史的に庶民は、国が取り決めたろくでもない制度に生活を脅かされてきた。戦前の「国家総動員法」にしても、昨今の「一億総活躍社会」と語彙が似ていて、気色が悪い。その気にさせられ、梯子を外されては適わない。
 一時はお題目のように政治家が唱えた、福祉福祉とはイレーズされ、老人には介護法を押しつけ、三陸地方の被災者にはかさあげ工事をすれば、「はい、これでお終い」とでも言うのだろうか。未来の構想に人間の温かみが感じられない。

 最近、CCRC(continuing care retirement commuity)と呼ぶ高齢者地域共同体が目につく。それはもともと、アメリカ人の富裕層を対象にしたコミュニティを開発、新開地に集めて集団生活させる老人村の構想だ。しかし、年金月額が20万円程度の日本人には、どだい無理な話に思えてくる。日本人は、古来から、自分の生活環境に暮らしを適合させる知恵がある。日本版CCRC構想は、開発型にせよニュータウン型にしても、どだい無理な話だ。年金や資産を、目減りさせられている日本人高齢者には、土台無理な話で、集団生活で日常を規制させられるのは御免被りたい。
 近頃は、認知症や孤独死がよく社会の谷間とて報道されるが、過去の高度成長期には、こうした悲惨な現実はあまり報道されなかった。核家族化の環境に遠因し、冷淡で自分本位な家族、そこらにウロウロしているのは情けない。
  いまの社会では、老後は孤立して暮らすのが当たり前と思われ、福祉や介護などに頼っていたら、精神的に健全な生き方など、夢のまた夢としか思えない。
 さりとて、CCRC的な暮らし方などは、いちぶの富裕層は別として、経済的には無理な話だ。また日本人的な感性としても、受け入れ難い。
 もともと日本人は、自立性の強い民族だから、自己の心を大切にした暮らしを尊んでいた。終活もそうした暮らしの中で育くまれた言葉だから、個々の『死』をどう迎えるかのプロセスを、試行錯誤ながら選択するのが終活で、尊厳に基づく人生最期の哲学的な行為だ。
 終活=死の選択。そうそう安易に結びつけることが出来ないから、いろいろと個々の事情もあって悩む訳だが、そんな事をいろいろ苦悩しているうちに、認知症になって徘徊をかさね、あげくの果てに孤独死を招いたりすることになるのかも知れない。
 だから、個々に適した『終活のライセンス』が必要なのだ。終活のライセンスとは、終活のプロセスで、安楽死を個人に委ねる、尊厳死の為の「旅立ちのライセンス」である。ライセンスの発効は、言うに易く、法的・倫理的になかなか難しいことである。
 しかし、この終活のライセンスは、これから変貌してゆくであろう、環境改革・人間関係・家族関係を考察すれば、究極の対策として、何らかのライセンスの発効を余儀なくされるだろう。     


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