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わたしの「居酒屋」幻想 №19 [雑木林の四季]

初の東欧への旅、ハンガリー

                                   エルベ書店主 多和田栄治

  映画「第三の男」はウィーンがまだ英米仏ソの共同管理下にあった時代を背景にしている。わたしが行った80年代当時でもまだ共産圏への玄関口にあたり、その所為かここでは入国ビザが一日でおりた。宿の予約も両替も、ブタペシュト東駅に着いて改札手前に案内所があるからと教えてくれた。約4時間の旅。列車がハンガリーにはいり、広大な草原にさしかかると、カービン銃をもった兵士が乗客一人ひとりのパスポートと所持品の検閲をはじめた。わたしの東欧圏めぐりの始まりである。
  入国には宿名を記入した宿泊料支払い済み証明書が必要である。案内所で100米ドルを両替し、4泊分の民宿代を支払った。朝食つき4泊、日本円にして約6000円の安さだった。駅を出て、さてその民宿はどこ? 近づいてきた客引き運転手に宿泊証をみせたら300フォリントで行くという。紙切れに120と書いたら「イゲン」OK。ドナウ川をわたって約15分、高層住棟の大団地のなかに車は止まった。
  10階建ての4階、エレベーターで上がった。同じフロアに5戸、指定された家の入口には「民宿」の表札がかかっていた。3LDKのうちの一室、鉢植えで飾られた8畳ほどの客間。坊やが一人のシングルマザーとその母親の女所帯であった。外国人旅行者を泊めるのは、外貨獲得と家賃補助の一策なのであろう。
  話を「居酒屋」のテーマにしぼるが、街の歩き方だけは書いておく。
  旅装を解き、鍵をもらって街に出かけた。1棟200戸ほどの高層住棟が何十棟と林立するなか、無事に帰りつけるよう、目印をスケッチしながら電車道に出た。切符の買い方は分からないので無賃でご免、社会主義国がとがめるはずはない。切符はどこか外で買うようで、運転手に現金で払おうとしたら、自分は運転するだけ、と笑顔で降ろしてくれた。(結局4日間、切符の買い方を知らずじまいにトラムに乗っていた。)まずは市街地図とハンガリー語の辞書をと、駅構内の売店にはなく、市内の書店で見つけた。地図と辞書があれば何とかなろう。冒険こそ旅である。
  夕方近くになったから、ブタペシュトの初夜を一人で祝う食堂なり居酒屋を探さねば。中央市場に行けば、周辺には新鮮な食べ物を安くたらふく食えるところがあるはずとは、わたしの旅の心得である。ドナウ川にかかる「自由橋」の左岸、ペシュト側に、わたしの大好きな中央市場がある。
                              


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