SSブログ

対話随想 №34 [核無き世界をめざして]

中山士朗から関千枝子さま

                                        作家  中山士朗 

<黙>
このたびのお手紙にありました加本光世さんの話、「ある悔恨」の経緯の話、狩野美智子さんの話を読みながら、花不語(花は語らず)という京都南禅寺の元管長、柴山全慶老師に「花語らず」という詩があるということを思い出しました。
 花は黙って咲き黙って散っていく/そして再び枝に帰らない/けれどもその一時一処(ひとときひとところ)に/この世のすべてを托している/一輪の花の声であり/一枝の花の真である/永遠に保媚びぬ生命の歓びが/悔いなく其処に輝いている。
 私たちの対話随想が始まった最初に、松原泰道師が後に臨済宗円覚寺派管長になられた横田南嶺さん(当時高校生)に色紙を書いて贈った短い話を、私はふとおもピ出したのです。

 花がさいている。
 精いっぱい咲いている。
 私たちも
 精いっぱい生きよう

 そして前回のお手紙にありました和田雅子さんの生涯、特に手記の結びの言葉に私は感動しました。
 <誰にも看取られることなく死んでいった『戦争の死』それは余りにも惨めで悲しい結末です。やはりどんなことがあるとも『平和の死』で、心安らかに自分の人生を締めくくる時代を守らなければならない>
この言葉こそ、一輪の花の言葉、つまり、一所懸命に咲いた花の声なき声に、私たちは耳を傾けて書き残しておく責務があるのではないでしょうか。そんなことを考えながら関さんの手紙を読んでいますと『ある悔恨』が広島市立図書館の「広島資料室」に保存、掲示されるまでの経緯を知るにつけ、その熱意と行動力には感服いたします。また、その一方では、健康を損なわれるのではないかと案じられてなりません。以前、車いすの身となっても活動をつづけていくと言われたことを思い出しますと、引き留めても無理かもしれませんね。かくいう私も関さんと同じような行動はとれませんが、いのちの最後まで、原爆について書き続けて行くにちがいありません。
 先日、電話でお伝えしたように、NHK広島放送局の出山知樹アナウンサーがわざわざ別府に取材に見えました。その日は、あいにく日豊線で人身事故が発生し、やむなく下車駅も亀川駅から別府駅に変更となり、到着時間も大幅に遅れてしまいました。そのおかげで、私の家に向かう途中、車の中から別府湾に架かる大きく鮮明な虹に出会うことができたのでした。あまりに見事な虹なので、出山さんが写真に撮って下さり、あとで送ってもらいました。
 ところがこの虹、実は二重の虹だったのです。
 取材が終わってわかれしなに、
「一期一会の思いで取材させていただきました」
と、出山さんが握手の手を差しのべられました。
私も一期一会の思いで語ったことを告げ、握手をして別れたのでした。
その翌日の大分合同新聞の朝刊を広げたとき、一面に<冬の空を彩る 二重の虹>という見出しで一月一八日午後一三時二分に別府市国際観光港で撮影された、二重の虹の写真が鮮明に浮かび上がっていました。そして、記事には、日本気象協会大分事業所の解説が添えられていました。それによると、虹はしぐれて一時的に太陽が雲の間から顔を出した際などに見える。雨粒が大きいと副虹も見えやすいという。主虹と副虹は色の並びが逆になると説明されていました。
 その日、別府市内では正午ごろには雨がやみ、薄日が差し始めました。市街地から別府湾にかけて二重の弧が現れたのでした。ちょうどその時間、私たちはタクシーで通りがかりに虹を見たのでした。けれどもそれは主虹で、副虹ではなかったのです。副虹はそのはるか上空に弧を描いていたのですが、車のなかからは見えなかったのです。
 以前、関さんから原爆が炸裂した瞬間の閃光の色(ピカの色)を質問されて、私は黄色と応えましたが、その後、調べるうちに、爆心地に近いところでは朱色またはオレンジ,一・五キロの地点では黄色、三キロ付近では青。五キロ付近では白と分かりました。その結果、副虹の色と合致しているように私には思えたのでした。このことは、『往復書簡』の一二三~一二四ページ、一三七ページで書き、
<それにしてもなんと悲しい、被爆者の心に消えることのない。生と死の架け橋ではありませんか。>
 と結んでいるのです。
 ですから、このたびの関さんの手紙に書いてありました、三・四キロ離れた地点で被爆された狩野美智子さんの妹さんが目にされた色がオレンジ色だったということは、長崎の場合は主虹の色の配列だったのではないでしょうか。科学者でもない人間の妄想として、聞き流してください。
 いずれにしても、副虹を直接目にすることはできませんでしたが、出山さんと一期一会の言葉が互いに発せられたことを考えると、その日の別府湾に架かった副虹は、まさしく『一期一会の虹』だったような気がするのでした。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0