猿若句会秀句選 №56 [ことだま五七五]
猿若句会特選句集 56(2015年11月14日)
猿若句会会亭 中村 信
鳶高く十一月をわがものに 川上登美枝
冬の百舌孤高一声天を射る 柴田弘道
短日や見えざるものに急かさるる 千田加代子
幸とは気づくものなり毛糸編む 宮島久代
客人を庭の落葉に誘ひけり 伊藤 理
三味の音は露地中程の花八手 丸本 武
◆猿若句会・十一月例会の特選句集です。例によって一句だけの短評から始めます。
[選評] [鳶高く十一月をわがものに 登美枝] 俳句的着眼点をうまく使っている不思議な句です。まず、季語は何だと思いますか。一見、「鳶」が季語だと思いがちですが、季語だったら季重なりになります。「十一月」です。「鷹」が[三冬・動物]として歳時記に載っているのに対し、タカ目タカ科の鳥である「鳶」は歳時記の何処を探しても載っていません。実は(正月として季語になっている)一月を除いて十二月まで全ての月は季語になっています。旋回しながら空の高みへと昇ってゆく鳶は、何月の空が似合うと思いますか? 脳天気な春の空、素頓狂な夏の空、秋晴れの空なら高い空で似合うことは似合います。しかし、なんとなく燻すんだような初冬の曇り空が相応しいような気がしてくるから不思議です。言葉足らずのような気がしないでもないが「十一月の空をわがもののように高み高みへと鳶が翔んでいる」の句意が見えてきましたす。正解は十一月の空だったのです。
[冬の百舌孤高一声天を射る 弘道] も不思議な句です。住居の近所で実際に経験している実感だそうです。何度か読みかえしているうちに「天を射るように高く一声鳴いている」のは「冬の百舌である」と思えてくるから不思議です。説得されたように確かに「冬の百舌」が相応しいのです。「百舌」(三秋・動物)だけだと秋になるのを避けて、「冬」の百舌の季語を使っているのではありません
今回は、正しい鑑賞方法ではなかったかもしれませんが、この不思議な二句に魅了されたという短評にしました。
◆句会での特選以外の秀作・佳作については中村信のホームページ《あ》[ http://saruwakakukai.web.fc2.com]をご覧ください。(ただし、該当欄が一時的に更新不能のため、同「掲示板」投稿欄にて代替しています)
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