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パリ・くらしと彩りの手帖 №42 [雑木林の四季]

いよいよ12月、師も走る月とやら

                                    在パリ・ジャーナリスト  嘉野ミサワ

 パリのオペラ座バスチーユでロベール・カルセンの新しい演出による”エレクトラ”が始まった。あのリヒアルト・シュトラウスのエレクトラである。ワグナーがオペラ界に君臨して、ワグナー風でないと軽視されたと云うあの時代に、此れに反発して作曲をしたと云う20世紀の新しい息吹のするオペラである。そしてそのテーマは古代ギリシャのあの血なまぐさい”エレクトラ”。フロイド流にいえば女のヒステリーを描いた物語ということになるのか。エーゲ海に生まれた神話が現代に重なる。

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古代の壺
 
 

 このオペラの台本はユーゴ・フォン・ホフマンシュタールによるもので、シュトラウスと共に創作することになる6つの作品の最初のものである。ドイツのドレスデンで初演されたのが1909年だ。指揮はオペラ座のフィリップ・ジョルダン、エレクトラを演じるのはスエーデンのソプラノのイレーヌ・テオリン、オレスト役はロシアのエヴジェニー・ニキチン、バリトン・バスだ。一幕もののこのオペラは茶褐色の土を壁一杯に塗り付けたような舞台造りで、弱い光の舞台に黒一色の衣装が独特の雰囲気をかもしている。こうしてこの悲劇は暗黒の中に埋没する。最近のフランスでのオペラとして、これほど迄にコスチュームも舞台装置も最小限にとどめたものはないだろう。そしてそれは一層密度の濃いものとなり、リヒヤルトの素晴らしい音楽に身を任せられるものとなっていた。

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                             バスチーユのエレクトラ
 
 パリにあるシャトーと云えば何と言ってもルーブル、この宮殿の庭が今のチュイルリー公園である。この見事なシャトーにふさわしいこの様な庭園を造ったのが天才の庭師、ルノートルだ。パリを出て、郊外線のメトロに乗り西南に向けて、30分位で、サンジェルマン・アン・レイに着く。メトロから上がった所にシャトーがある。この庭もルノートルの作品である。日本人が好きなソーの庭園も、ヴォー・ル・ヴィコントの名園も、シャンテイーの城の庭園も。どれも彼の設計と創造によるものである。そして恐らくいちばん名高いのが、ヴェルサイユの宮殿の庭園、ここの雄大かつ緻密な空間を造ったのも彼である。現在ヴェルサイユの庭園を管理している部署では昔ながらの庭師達のチームと共に、コンピューターでも管理しているグループが、ルノートルが17世紀に行った設計を現代の精密な機械で調べると、一部の狂いも無く完璧に出来ているのにびっくりさせられると云う事である。

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ルノートル肖像
 
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空からのヴェルサイユ
 
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庭園の一部
 
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銅像と水を廃したお城の眺め
 
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2007年におかれた銅像
 
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銅像のおかれた所
 

 こうしてアンドレ・ルノートルは今から400年前、1613年パリに生まれ、1900年に88歳でパリに死すまで、ルイ14世を始め、多くの王侯の為にフランス中いくつもの名庭園を造った人であり、日本語の庭師という言葉では説明しきれるものではない。何よりもまづ庭園の建築家であり、庭のアーテイストなのである。ヴェルサイユを見てもすぐわかる事だが、ここの立派なお城もこの庭園が無かったら全く違うものだったろう。彼の造る庭の特徴と云えば、幾何学的な線と、透視法と云うか、遠近法と云ったらよいのか、遥かに見渡す風景の重要さ、そしてそこに配置する噴水など水の動きを造り、それぞれの彫刻を配するなど、王朝の威勢を誇るのに似つかわしい手段をいろいろと取り入れて、注文する人々に多いに満足感を与えたから、その一生の間、次から次へと注文が来たのだった。全体の中に没する事無く、一分の間違いも無く、あくまで緻密な計算があった事を、今のコンピューターが実証して、21世紀の人間達を驚かしているのである。そして、彼自身が決して立てる事の無かったアンドレ・ルノートルの銅像が今から5年前に、何故かフランス革命記念日の前日にヴェルサイユの庭園の一角に立てられたのである。ルイ14世らが、豪華なシャトーや庭園を次々に造って贅沢をした事がフランスの経済を疲弊させ、あの革命がおこることになった事の暗示と見ては行き過ぎだろうか?

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ヴォールヴィコントの庭園
 
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シャンテイーの庭園 
 

 トウールの町のラブレー大学で、世界の4ッの国で活躍するフランス料理の名シェフ4人が名誉博士号を受けた事は前号で御伝えした通りだが、その2週間後には今度はパリで、それもアカデミー・フランセーズの殿堂で、フランス人の名シェフの一人、ミシェル・ゲラールがラブレー賞を受けた。フランスでは昔から食べる事、ガストロノミーに関しての出来事はよく話題になってはいたが、それでも今ほどは盛んでなかった様に記憶するが、ユネスコがフランスの食事の形式を独特なものとして、そのあり方を人類の造った記念すべきものとして大切に保存すべく分類してから特に活発になったと思うが、特にこのところ驚く程に活発になって来ている。博士号の方も、学士院での授章式もフランスの15世紀末にロワールの町lトウールに近いシノンに生まれ、カトリックの僧侶であり、医者であり、更に作家であったフランソワ・ラブレーの名がついている。名誉博士号の方はこの称号を与えた大学の名であり、この大学では食に関する研究が早くから進められている。フランス人の感覚からいえば、このラブレーと云う名が呼び起こすのは、キリストの教えとは反する下劣な人間を書いた作家であるにも拘らず、何となくユーモラスであり、快楽を求めると云った所のようだ。

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ラブレーの肖像
 

 さて、この授賞式は、学士院で行われ、その賞状の内容は ”食事に関する文化遺産を讃える“ と云うもので、それも40人の不死者と呼ばれるアカデミー会員達が、昔から木曜日ごとに集ってフランス語の何と言う言葉を学士院の辞書に入れるかどうかを検討する仕事をやっている部屋であり、この永遠の仕事は恐らく永久に続き、辞書は完成する事は無いであろうと云われている、その部屋での授賞式だったのである。

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学士院での授賞式
 
 

 ルレ-・エ・シャトーと呼ばれるデラックスなホテルが作るグループの快挙だったが、フランスの南西部にある温泉町のユージェニー・レ・バンにこのようなホテルの一つを持ち、そこでミシェル・ゲラールが作る料理は、健康を重要視する彼の理論に従って作られ、、その三ツ星が欠けたことはない。彼のレストラン ”ユージェニーが原”には、そこでの食事のためにここを目指して旅をして来る人も多く、しかも美味しくて、彼の食事を続けていれば太る筈はない。ちなみにそのレストランは昼はいつもしまっているから御注意。

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レストランのキッチン
 
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キッチンとブリガード
 
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ミシェル・ゲラール
 

さて,今日のお便り最後にこの年末パリにと考えている方々に,安くて美味しいレストランを一つご紹介しよう。パリのオペラ座バスチーユに来た方なら,このオペラ座にくっついている様に見えるブラッスリーの“グランド・ルシュ(大きな階段)”を覚えているのではないだろうか。昔はトウール・ダルジャンの名前だったが,同名の有名レストランからの訴訟で,遂にその名を変えざるを得なくなって,オペラ座の大きな階段に隣接している事から,この名前にしたのだ。ここでは美味しいものを適切な値段で出しているから取り上げて話さない事にするが,それでもブラッスリーと呼びながら,お客が多すぎるからか,食事をする人以外はお断りとなって,私の様に夕食は普通の人の夜食の時間、夜中近くに食べるから,オペラが終わってから自宅でゆっくり食べられるし,それにいちいちここで食事をしていては高くてたまらない。いくら近いとは云っても3、40分のオペラの休憩時間ではフランスでは食事には間に合わない。私にとってはそれがいいコーヒー時間だったのがもう数年間使えなくて不自由していたのが,今は元の本当のブラッスリーになって,自由がきくのはありがたい。この根っからのブラッスリー経営者の,ジューリー一家が持っている店はパリに1ダース位だろうか。それぞれ特徴があって面白いのだが,その一つ,“シェ・シャルチエ”がある。昔からのオペラのガルニエ宮から,歩いて5、6分。そのスローガンは“この店の自慢のスープは1皿1ユーロ”である。このレストラんには安くて美味しいものを食べようと云う人が列をなしていて大変である。朝は11時30分に開き,夜は10時迄。日曜から月曜まで休む事はない。だから普通の時間を外して行けば行列時間は少なくて済む。中はなかなか立派な作りで,しかも大きい。私が行った時も苦労して並んだのだったが,注文をする時になって,うっかり自分の好きな魚の料理などを頼んだら味の方はまあまあだったし,値段は超安かったから文句を言えたものではないが,それよりもこういうレストラんの特徴を考えて,長い時間煮込んだ肉料理などを頼んだらきっと素晴らしい味だったに違いない。看板のスープから想像すれば誰にもわかる事だろう。考えが足りなかった自分を反省しているがまだ二度目を試してはいない。でもメニューにあるものすべてが普通のレストラんの何分の一である事だけは確か。この冬のパリ旅行の間に是非御試し下さい。

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             レストラン“シェ•シャルチエ”の1ユーロのスープとレストランの風景

 

 



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