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往きは良い良い、帰りは……物語 №4  [文芸美術の森]

その4 『十三夜』『爽やか』『鹿』『野菊』そして清書

                                                      コピーライター 多比羅 孝
                                       
≪平成25年9月19日≫
五七さんから連絡あり。次回のこふみ会の兼題は『十三夜』と『爽やか』とでは如何かと。OK!! いいですねえ。問題ナシ!! と、私・孝多。
実は、次ぎの句会の当番幹事が、五七さんと私に決まったときから、二人の間で≪連絡を取りながら、仕事を分担してやろうよ≫という約束が出来て居りました。つまり……
◆兼題のモトを考えるのは五七さん。
◆席題のモトを考えるのは孝多。
そして二人で相談して、本番用の4つの季題を決定しよう。
◆会員仲間への案内状を発信したり、出欠の返事をまとめたりするのは孝多の役割り。
◆会場の志満金へ出席人数を知らせたり、料理の注文を申し入れたりするのは五七さんの仕事。五七さんは料理に詳しいから。
そこで、次ぎのような案内状を孝多が作り、FAXで発信しました。
実行された現物(げんぶつ)は「タテ」の「手書き」でしたけど……。

***********************************                         こふみ会十月例会のお知らせ

時下ますますご清祥の段、お慶び申しあげます。
さて、当月の句会は左記のような運びとなります。
ぜひ、お元気なお顔を見せて頂きたく、一筆、ご案内申しあげます。

                記
 日時=平成25年10月9日  夕方6時より
 会場=いつもの志満金(電話03-3269-3151)
  兼題その一『十三夜』
  旧暦九月十三日の月。十五夜から一ヵ月あとになるので(今年は十月十七日)「後の月」と呼
  ぶ。名月とは違った趣を楽しもうと、十三日目の、少し欠けた月をめでた。「花はさかりに、月
  はくまなきをのみ賞するものかは」(徒然草)
      ◆遠ざかりゆく下駄の音十三夜(久保田万太郎)
 兼題その二『爽やか』
     秋は空気も澄んで、さっぱりとして、すがすがしい気分になる。
  「爽やか」は気分が、はればれして快いさまをいう。日常では季節に関係なく使用される言葉                   だが、夏の不快感の後なので、格別なものがあり、俳句では秋の季語とされる。
      ◆爽やかに日のさしそむる山路かな(飯田蛇笏)
  席題=当日、二句。
  ご出欠=なるべくお早く。FAX=048-887-0049 孝多まで
  お願い=連載中のブログに使わせて頂きたく存じますので、もし、よろしかったら、返信レター
       の『カラー版』を、当日、句会の席に、ご持参願えれば幸甚です。

               平成25年9月吉日    当番幹事  五七
                                                               孝多       
***********************************

この案内状の末尾に書いた「お願い」は、こふみ史上初めてのことで、まったく、孝多の勝手な、おねだり。
しかも、あつかましくも、私・孝多は、もし皆さんからご賛同いただけたら、これを毎回のことにしよう、と考えているのです。でも、どうなりますか……。
いや、きっと大丈夫。当日、どなたかが、きっと、すばらしい『カラー版』を、持って来てくださるに違いない、と、信じることに致します。何しろ、往きは良い良いという楽観的な見通しこそ、こふみ会に対する孝多の思いの根幹なのですから。

と、書いて、今、ふっと思い出しました。案内状には書かなかったけれど、「十五夜」の月を眺め、さらに「十三夜」の月を、と、両方の月を鑑賞するのが粋とされていたのだそうですね。産調出版の『読本・歳時記』に載っていました。

* * * * * * * * * * *
*こふみ会の方式
お問い合わせがありましたので、こふみ会の定例句会は、どのように行なわれるのか、ここにまとめてご説明致します。少々長くなりますが……。

◆定刻6時をちょっと過ぎれば、ほぼ全員が会場に揃います。そこで、当番幹事が兼題と席題を、それぞれ半紙に書いて張り出します。計四枚、ぴらぴらと。(一回の句会で四句詠むのが普通です。)

◆その四題について当番幹事が説明したり、質問を受けたりします。締め切り時間の宣告もあります。

◆さあ開始!ということで、仲居さんたちによって、酒やビールと共に、料理が次ぎ次ぎと運ばれて来ます。とたんに賑やか。雑談、哄笑、ゴクゴク、むしゃむしゃ、ちびりちびり……。おっとっとお。

◆さしつ、さされつなどして、句を作るとも見せずに居りながら、しかし、みんな、しっかりと、心の中で作っています。食べながら、飲みながら、自分のケータイやメモ帳を、然り気なく見ている人もいます。

◆やがて、幹事が声をあげます。「締め切り10分前で~す。」
この、ひとことによって、みんながいっせいに書き始めます。

◆あらかじめ幹事によって配られていた細長い、ヨコ2センチ・タテ25センチほどの「投句用紙」を使い、1枚に1句ずつ書きます。つまり、四句を別々に。ただし、全て無記名です。自分の俳号は書かぬこと。

◆その間に、幹事は張り出してあった兼題と席題の半紙を降ろします。降ろして、ちょっと離れた畳の上などに置きます。四枚、少しずつ間隔を取って……。

◆これが投句の場所です。半紙に書かれた題のところへ(半紙の下へ)その題で作った句を(細長い投句用紙を)各自、すべり込ませます。

◆細長いのを四枚、すべり込ませてしまったら投句(提出)は完了ですから、やれやれです。自分の席に戻って、改めて、ビールなど飲んだりします。

◆幹事と世話人たちは大変です。やや大きめの台紙に投句用紙を、題ごとにまとめて両面テープで貼り付けるのです。句を貼った台紙が四枚出来ます。

◆それを持って世話人たちはコピー(複写)を取って来ます。出席人数分です。10名参加でしたら40枚。それを題ごとに仕分け、間違いのないページだてにして、全員に配ります。この「複写本」を見ながら、全員が「選句」をします。「複写本」は選句したあと、各自、持ち帰ることが出来ます。

◆「選句」は「複写本」にある全句の中からランキングが「客」の句を5作。ランキングが「人」の句を1作、「地」の句を1作。「天」の句を1作。「花」の句を1作。計9句を選ぶべし、ということになっています。

◆「客」に選ばれた句は1点、「人」に選ばれた句は3点と記念品、「地」は5点と記念品、「天」は7点と記念品と短冊がもらえます。「花」は記念品だけで得点ナシ。

◆「複写本」に書かれているのは5・7・5だけであり、それぞれの句の作者名(俳号)は記されていませんから、誰が、どの句を作ったのか、この段階では不明です。

◆こうして選んだ句を各自、幹事から配られた「読み上げ用紙(選句用紙とも言う)」に書きつけます。「花」「天」「地」「人」「客」といったランキングを句のアタマに書いておくことも忘れずに。発表の際は、このランキングの表記も含めてその句を読み上げるのですから。

◆「読み上げ用紙」には第一行めの下段に、選者の名前(俳号)も必ず明記します。たとえば「孝多選」というふうに。(そして選んだ句を読み上げるとき、まずは第一に、大きな声で、はっきりと「コウタセン」と言い切ります。)

◆このように「読み上げ用紙」が完成したら、「天」に選んだ句を短冊に書いて、そっと手もとに置きます。選者から作者へ贈る大切な品です。短冊はヨコ5センチ、タテ35センチほどの大きさで、金縁(きんぶち)が付いています。幹事から受け取り、表(おもて)に毛筆で書きます。書いた句の下の脇のほうに選者の俳号を記します。たとえば「孝多選」。短冊の裏には書いた「とき(年月日)」と「ところ(会場名)」を書きます。いつまでも残る記録です。

◆「花」「天」「地」「人」に選者から謹呈する「記念品」にも、その包装紙などに、ランキングと、選者名を記しておきます。それが「マナー」というものでしょう。手渡すとき、口頭で申し添えることもあります。「この間、ロケで山形へ行ったの。そのお土産。」などと。

10月こふみ3.jpg

                                  鬼禿さんの包装紙
                      ≪鬼禿さんはいつも自家製の包装紙を使っています。≫

◆さて、席上、全員が「読み上げ用紙」「短冊」「記念品」などの準備を整え終わった時点で幹事が声をあげます。たとえば「よろしいでしょうかぁ。そちら、一番奥のエー太郎さんから順番に選句発表、読み上げをお願いしま~す。」

◆では、と、エー太郎さんが姿勢を正して発声します。『エー太郎選。客×××××××』
それを聞いて『ハ~イ、ビー次郎!』とビー次郎さんが応じます。自分の句が読み上げられたら、このように返すのです。
『続いて客。◎◎◎◎◎◎』とエー太郎さん。
『わ~い、シー助で~す』とシー助さんは手をあげて嬉しそう。
……という具合に、読み上げ発表が進み、ハ~イ、ハ~イがあり、得点を数える係の世話人は、あらかじめ用意しておいた得点表の俳号の下に「正」の字で、それぞれの得点を記して行きます。

◆短冊や記念品の受け渡しなどもスムーズに運び、全員の選句発表が完了すると、いよいよラストのクライマックス『本日の成績発表』です。幹事が呼びあげます。このブログで毎回書いているように……
  『さあ、皆さん、成績発表で~す。
  トータルの「天」は〇〇点で□□さ~ん』パチパチパチ。
 『トータルの「地」は〇〇点で△△さ~ん』パチパチパチ……
こうしたパチパチパチという称賛の拍手が、いつも愉快なこの会の手締めのように響きます。めでたし、めでたし。また来月!!
……というのが、こふみ会のやり方。ご理解頂けたでしょうか。
特色は「宗匠ナシの互選運営」といったところです。
* * * * * * * * * * * * * *

さて当日≪平成25年10月9日≫
いきなりで恐縮ですが、上記とは違うことが行われました。
こふみ会は当番幹事に一任される事柄が多いのが常ですが、今回は幹事の一存で、上記のような「複写本」ではなく、(それを作ることをせず)かつて行われていた「清書方式」が一時的にも復活、採用されたのです。

各自が細長い紙(投句用紙)に自作を書いて提出する、そこまでは同じですが、かつては、この用紙に書かれた句を「専任の書記」が、ひとりで全部「清書用紙」に書き写し、それを「回覧」したのでした。(「書記」は作句致しません。会として謝礼のお金をお出ししないカワリに、書記さんからは食事代などの「会費」を頂きませんでした。)

こうした書記による「清書方式」ですと、各自の手書きによる句の表情が見えなくなり、選びやすくなります。
しかし、その考えに対して、いや~と、異議をとなえる人もいます。
誰の作品か、その字体によって分かることがあっても、俺はそれに引きずられて句を選ぶようなことは無いのだから、清書しても、しなくても、こちらにとっては同じようなものさ。でも、清書したほうがいいね。
何故かと言えば、清書の場合なら誰の作か、予想する(当てる)楽しさが充分味わえるし、予想がはずれた時のオドロキが大きいからね。面白いよ。

そんな考えから、そして≪一回やってみて、様子をみて、この次ぎも清書方式にするか、それとも「複写本」にもどすか≫決めましょう、ということになったのです。清書には幹事を含めて四人の若い人たちが当たってくれました。

四人が手分けして1枚ずつ「十三夜」「爽やか」そして席題として決まった「鹿」と「野菊」を清書してくれて、この1枚ずつが、時計廻りに全員のもとへ廻って来ます。

良い句を選んで自分の手もとの紙に書き写し、清書の紙は次ぎの人へと廻すのですが、あちこちから時々、声がかかります。「すみませ~ん、≪鹿≫の紙はどこにありますかぁ~。もう一度確かめたくなったもんですからぁ~」「ハ~イ。こちら、このテーブルの上にありま~す。」「ど~もぉ」と、立ち上がって、そのテーブルの所へ行って、「ふむ、ふむ。これで良し。」とか何とか……。一冊ずつ手もとに届いて、それとニラメッコする「複写本方式」では見られない、変わった風景です。

でも、句会は何の問題もなく進み、各自の選句発表(読み上げ)の段階に入りました。そこで「幹事からのお願い」があり、それぞれ「天」に選んだ句について一言(ひとこと)言い添えることになりました。

秀句には、ひとつ、「極め言葉」かな、「殺し文句」かな、いっそ「ポイント言葉」とでも言ったら良さそうな、惹き付けの強い言葉が嵌め込まれているようです。
例を挙げましょう。
◆スコアボード 爽やかに0(ゼロ) 並びをり   (五七)
この場合の≪爽やかに0≫や
◆やわらかく 握り合う手よ 十三夜  (孝多)
この場合の≪やわらかく≫や
◆来た道も 行く道も野菊 また野菊  (不実)
この場合の≪また野菊≫や
◆少年に なりきれなくて 鹿となる  (風歌)
この場合の≪なりきれなくて≫などがポイント言葉。
当然のことながら、皆さんからの「ひとこと」は、これらのポイント言葉に対して集中的に発せられました。
≪なりきれなくて≫については「意表を突いている」「何故かを言わないところがいい」「思わせぶりだけど……選んじゃう」などという声が相次ぎ、≪また野菊≫では「……も」「……も」とやって、さらに≪また野菊≫とやる、その、くどさが凄いという声(讃辞)が高鳴りました。
≪やわらかく≫も皆さんの話題になり、≪爽やかに0≫に対しては、目に見えるようだ。延長延長と果てもなく続くようだ。空が青い。と、某氏は諸賢を代表するかのように、その感慨を披瀝しました。ポイント言葉の威力です。

ところで、上記の1句(十三夜)のほか、孝多の今回の提出句は次ぎの3句でした。
◆手酌して 爽やかに今日を 締めくくる
……これについては≪手酌して≫が「負のポイント言葉」になったようです。「演歌っぽい」という声があったりして、がっくり。いいセン行ってると思っていたのに。
◆咲きに咲く 目ん玉ぢゅうに 野菊かな
……これについては≪目ん玉ぢゅう≫が「シュールだなあ」という声に、にっこり。よくぞご理解くださいまし。と、嬉しくなりました。
◆鹿を撃ちし 若者泣けり 裏の山
……これについては、提出する時から「裏の山」がいけないなぁ、けれど≪若者泣けり≫のポイント言葉で何とかなるか、と思っていましたが、アニハカランヤ。五七さんの句に『熊撃ちの つまらなそうに 鹿を撃つ』があって、それにピシャリとやられてしまいました。甘かったなあ。(≪つまらなそうに≫がポイント言葉。)
そうこうしているうちに……

さぁて、本日の『成績発表』です。(会報編集部からの資料による。)
「天」は~、二回連続! 五七さん、36点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
「地」は~、不実さん。35点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
「人」は~、風歌さんとタケシさん。共に23点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
次点は~、孝多さん。22点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
「花」は~、矢多さん。3輪。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
そして、鬼禿さんからブログ用「カラー版・返信レター」のご提示がありましたぁ。これで~す。パチパチパチッ。(孝多は衷心より感謝!そして安堵!)

こふみ会4.jpg

                          ≪鬼禿さんからの返信レター≫

では、また、来月。当番幹事は名簿順で木魚さんと、ひろばさん。どうぞよろしく。

                                                          (第四話・完)
                                                         
◆◆追補◆◆
その1……席題の「鹿」では例句として、芭蕉の『ぴいと啼く尻声かなし夜の鹿』が、幹事から披露され、みんなが、どっと湧きました。ああ、俳聖と言われる人でも、こういうのを作っていたのか。こりゃぁ有難い。気がラクだぁ。
さらに、鹿の交尾期は秋、八月から十月までで、このころ牡鹿は牝鹿を呼ぶためにピーッと高く長く、強い声で鳴いて哀愁がある、という解説に一同、OK、OK、よく分かった、という好反応ぶりでした。

「野菊」に関しては、『野菊という名の植物は無い。』山野に自生している菊に似た花を総称して野菊というのである。という幹事の説明に、みんなびっくり。≪野菊の如き君なりき≫は、どうしたんだぁ??  実は、幹事だって、今度、歳時記をめくってみて、初めて知ったこと。なのでありました、と告白。
例句としては『らんぼうに野菊を摘んで未婚なり』(秋元不死男)などが挙げられました。

その2……二次会では「複写本」や書記による「清書方式」などを超えた、いわば「パソコン方式」が考えられないか、話題になりました。
句会の席で、即座に、選句のための資料が各自の手もとに配られる。
加えて、それをモトにして、会報作成の簡易化・スピード化が図られる……そんなシステムが創れないものか。
導入の予算はどのくらいかかるか。維持費はどうか。
これからのこふみ会のために原案を考えてくださいな。会の全員で検討出来るようにね、と、若い四人に、デジタル音痴の年寄り孝多がお願いしました。あ~、頼んじゃった。これで良し良し。だから、帰りも良し良し、でした。原案の上がりが楽しみです。

◆◆事務局からのお知らせ◆◆
こふみ会・第526回(今回)にて詠まれた全40句をメールでお届けします。ご希望の方は下記までお申し込みください。
    chinokigi@kg7.so-net.ne.jp


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水野タケシ

孝多先生、今回も楽しく拝読しました!
「ポイント言葉」、勉強になります!!
11月は、そのあたりを意識して句をこさえたいなあ~~。

またご指導お願いします!!
by 水野タケシ (2013-11-01 07:21) 

寿限無

今回も楽しく拝見させていただきました。

俳句には「ポイント言葉」があるのですね。

いままで何となく読んでいましたが、これからはこのポイント言葉を

見つけて読んでみたいと思います。

「来た道も 行く道も野菊 また野菊」 (不実)

この句今回の一押しです。
by 寿限無 (2013-11-01 14:01) 

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