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猿若句会秀句選 №30 [ことだま五七五]

猿若句会特選句集 30(2013年8月10日)

                               俳人・猿若句会会亭  中村 信

   幾千の蜉蝣飛ぶや敗戦日   三宅 哲

   秋扇置かれしままの文机   原 健一

   追伸に友の消息夜の秋   千田加代子

   潔く魚は焼かれ崩れ梁   川上登美枝

   発駅や昔に変らずカンナ咲く   丸本 武

   蜉蝣や日差しの中に薄き影   宮島久代

   蝣やすらりと水の香を離れ   大橋一火

◆猿若句会・八月例会の特選句集です。特選以外の秀作・佳作については中村信のホームページ《あ》[ http://saruwakakukai.web.fc2.com](URL従前と変わりました、ご注意ください)をご覧ください。この電脳版パソコミ誌には俳句・連句・その他、ミニエッセイなど種々掲載しています。例によって一句だけを短評します。
[選評] <幾千の蜉蝣飛ぶや敗戦日 哲> 今月の最高点句の哲さんは実は会員ではありません。古くからの知人で(猿若句会の通信を楽しんでくれている)会友です。年があけてから身辺におきた諸々のことがらから、今月の兼題「蜉蝣」が気になっていたと私信にありました。作句したという気はあまりなかっただろう添書にあった二句を、本人には断らず勝手に投句作品のなかに紛れこませておきました。
 結果的には会員が最高点句に選びましたが、俳句的には問題があります。<季重なり>なのです。「蜉蝣」だけでなく、実は「敗戦日」も季語なのです。終戦記念日=敗戦日は『ホトトギス歳時記』を除き、ほとんどの歳時記が季語として載せています。
 <季重なり>については季語に軽重がはっきりしてるなら、その重いほうを優先すれば良いとする説があります。この句の場合、どちらの季語が重いかというと一般的には「敗戦日」だと思います。「蜉蝣」が軽いということではなく、俳句に興味をもっていない人には無関心な動物だろうし、季語的にもイメージが固定されている感じがあるからです。しかし、実は「蜉蝣」が兼題だったのです。この季語(を中心に据えて)作句してくださいというのが兼題ですから、重みは少々増しさらに厄介なことになりました。多少の救いは「蜉蝣や……」と切字を用いたらさらに重みを増すところを、切字は「……飛ぶや」と用いたことです。
 本題に戻ります。句意は(幾千もの蜉蝣が飛んでいる、そう言えば今日は終戦記念日だ。まるであの蜉蝣は戦争で犠牲となった英霊たちの魂のようだ)とまで深読み出来ます。そう鑑賞してみると、どちらの季語もはずせません。試しにどちらかの季語にしぼってこの句意を表現できるかどうかチャレンジしみてください。この作品に限っては二つの季語に軽重はなくとも佳句である希有な例だと思いました。この句に票を入れた会のベテランの方たちも季重なりに気付かなったというより、この句のもつインパクトに負けたというのが実状でしょう。
 それにしても俳句は難しいものです。皆様もこれを機会に俳句への関心をさらに深めていただければ有難いと思います。


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