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台湾の主張 №28 [雑木林の四季]

 民主主義は民を甘やかすものではない

                                    元台湾総統  李登輝

 私がそういえば、必ず次のような反論がなされるだろう。
 「あなたは国民を信頼せよというが、議論で民衆が納得するというのは甘い。民主主義で甘やかされてしまった民衆は、目先の利益をありがたがるに決まっている」
 私はこうした事態が起きることを否定はしない。民主主義というものは、必ずマイナスの面をもっていることは、歴史的にみても確かだからである。民主主義が国民を甘やかすという説は全面的には認めがたいが、急速に民主主義化された社会では、大衆迎合の政治が生ずる危険がある。
 この間題に関しては、私は時間に委ねるしか方法はないと考えている。民主主義という制度自体が、私が述べてきた「回り道」の方法であって、政治目的に直線的に突っ走る独裁制と異なるのはこの点である。民主主義の成熟もまた、「回り道」によって達成すべきものなのである。
 その意味では、フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』で述べたように、自由経済と民主制の組み合わせが歴史を終焉させるという考え方に私は賛成できない。自由民主主義という形態にさえすれば、最終的な目的地に到達したということにはならない。
 アメリカのように、建国以来、自由民主主義を標榜してきたような国ですらも、国内には多くの問題を抱えている。たとえば、貧富の差がさらに拡大しているという問題もある。
また、資本主義の力が強すぎて、経済が政治をコントロールしてしまうという危険も存在する。さらに、人種的なマイノリティをどのように扱うかという問題も、決して解決したとはいえない状態である。、
 自由民主主義は、すぐに問題を解決するようにはできていない。国民がいくら「いますぐ、よくしてくれ」と叫んでも、「回り道」をして漸進主義的にしか前進しない。無理をすれば、必ず歪みが生じる。
 同様に、台湾における自由民主主義も、「歴史の終わり」どころか、まだ始まったばかりにすぎない。多くの問題は、ゆっくりと「回り道」を恐れずに歩んで、着実に解決していくべきなのである。

『台湾の主張』PHP研究所


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