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詞集たいまつ №70 [雑木林の四季]

さばく章

                                 ジャーナリスト  むのたけじ 

(2163)原初の人たちの平均寿命は約三〇年と推計されている。それから四百万年余が過ぎて「本能寺の変」のドラマでは織田信長(一五三四-一五八二)が「人間五〇年……」と能を舞う。更に約四世紀が過ぎて第二〇世紀の半ばに「人生は六〇から」と合言葉のように言われだした。人の平均寿命を延ばす、延びることの何と気の遠くなる難事であるこ
とよ。ところが、この世紀の終わりに近づいたら「人生七〇年だ」「人生八〇年時代の到来だ」となった。この急変は一体なんだ? 高齢化社会だと言えば、それですむか。衣食住の改善、医療の充実だけで説明がつくか。事実は、いのちの世界の摂理ゆえではないのか。いのちの世界では、不要のものは必ず消えていき必要なものは必ずふえる。地上の至る所で老人の急増した理由は明白である。いのちの世界が多くの老人を必要としているからだ。老人を必要とする理由は明白だ。第二〇世紀を十分に経験した男女老人たちが、まさにその歴史に学んだ経験知で団結して決起し、非老人たちと結束し、迫ってくる破滅の危機と戦って、それを打ち砕くためだ。そうしないと、いのちの世界はこなごなに砕ける。だからこそ「高齢少子化」という現象で、うぶ声の方には制動が加えられているのではないか。…‥重態をこのように受けとめる声は、まだどこからも聞こえてこない。もしもこのまま老人たちと非老人たちとがあっけらかんと時間を空費するなら、次に来るものは極めて明白である。人類の平均寿命は、一転して急速にゼロに近づいていく。

(2164)「少子化」という悲嘆の正体は何だ? 子は生みたくない、育てたくない、ごめんだという風潮が女性の間に流行病のように広がっているそうだが、それだけではない、避妊の道具や薬品を使わなくとも、子は生まれないというではないか、子がほしいと努力しても、多くの男性の精子が無力症にむしばまれていて、子宮の奥にたどりつけないとい
うではないか。人口の縮小に拍車がかかれば、むろん種族が間もなく消滅する。この危険の顕著なのは、過去に他国家・他民族を支配して収奪の乱暴を続けた国々である。という事実は何を語るか。そういうとき昔の人たちは「因果応報」あるいは「天罰」といってわが身を答めた。現在の人々にその謙虚はない。思い上がるか卑屈に成り下がっている現在人たちの感覚は純粋を失った。マヒしている。だから物すごい危険の告示が「少子化」に含まれていることに気付かないのではないか。第三次世界大戦の危険だ。人口が漸減して幾つかの種族が消える危険どころか、人類のほとんどがたちまちに消滅する危険だ。危険は濃く実在する。資本主義の行き詰まりゆえの経済の破局を恐れる権力構造は、中国一三億人そしてインド一〇億人の市場を求めて争乱の口火を切るだろう。当然、核爆弾が乱れ飛ぶ。この危険の進行を、天地の生命の流れが感知した。それで「地上に子らをふやすな。子の数をできるだけ減らせ」と人間の両性の心身にブレーキをかけたのではないか。いうまでもなく、どんな戦争の場合にも、最もひどい目にあうのは、開戦に何の責任もない子どもたちとその母たちであるからだ。現在の人類よ、お前はこの世の動きからそのような啓示を汲み取らないのか? (ペンで書くのは以上でおしまいだ。この先は、書いたり言ったりするだけでは糞のたしにもならねえ。)

『詞集たまつⅣ』評論社


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