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台湾の主張 №23 [雑木林の四季]

 票が欲しいだけの政治は国を害す

                                     元台湾総統  李登輝

 台湾が体験した、具体的な例を上げてみよう。農業改革の問題は、まさにこの「回り道」の好例だったといえる。経済成長のために、土地の生産性を上げるという課題があった場合、直接的に目的を達成しようと思えば生産性の低い農地に資本投入して、生産性を上げればいいわけである。
 そこで、農地の売買の制限を壌和して、自作農だけでなく他の人や企業も自由に農地を売買できるようにすれば、企業が農業に参入して合理的な農業を行うから、土地の生産性が上がるという議論は正しいように思われる。しかも、農民にしてみれば、次第に兼業化していく過程にあるから、ある程度のお金が手に入るなら農地を手放してしまってもかまわないような気になる。
 しかしもし、なんの補助的な措置もなく農地の売買が自由化されてしまえば、農地はスペキュレーション(投機)の対象になるのは目にみえている。農地は必ずしも農業のために使われなくなり、地価が高騰したあげく生産性の高い工業用地や住宅地に転用されてしまうだろう。そして、その結果、台湾には農地を失った元農民の失業者があふれることになるのである。
 したがって、簡単に農地の売買を自由化することは、かえって台湾の生産性を低下させることになるのでなんらかの規制が必要であろう。しかし、そうはいっても永遠に台湾が農業中心の社会・産業構造を続けるわけにはいかない。早晩、農民人口は減少していくだろうし、またそうでなければ台湾の発展は望めない。
 そこで台湾省主席当時私が行ったのは、こうした急速な自由化を阻止するとともに、将来に備えて生産性の高い農業を行う「核心農家」の養成だった。「核心農家」を八万戸創出し、その子弟は農業専門学校で最新の農業技術を学べるようにすれば、台湾の農業の未来図は描けると私は主張した。
 現在、「核心農家」の二代目が活躍しており、彼らはさらに農業の生産性を上げるべく努力をしている。こうした人たちが農業を支える段階になれば、彼らが農業法人を作って大規模な企業的経営をはじめてもいいわけである。すでに台湾も最先端の工業を擁する産業国であり、また農業人口も圧縮されているので、失業問題につながる心配もあまりない。
 もし、こうした回り道をしないで農地の売買自由化に走っていれば、現在のような台湾は実現できなかっただろう。政治でも経済でも、ターンパイク理論は決して忘れてはならない。ことに民主化されればされるほど、「回り道」は政治にとって重要になる。民主化された国では、必ず選挙での票の集まり具合と政治家の掲げている政策が緊密になるからである。
「確かに長期的な観点に立てばこの政策は必要だが、こんなことを主張すれば票は集まらない」という事態はしばしば起こる。こんな事態を解決するには、政治家同士が国民の前で議論することであろう。「この政策は即効性がないが、台湾の将来のために必要だ」といぅ主張が、マスコミを通じてなされれば、国民すべてが目先の利益を追求していない限り、長期的な政策が評価されるようになるはずだ。

『台湾の主張』PHP研究所


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