卵の降る街・白石かずこ詩集 №23 [文芸美術の森]
ことしが終り始めていた(this year is beginning to end)
詩人 白石かずこ
ことしが終り始めていた
ハゲ鷹の甘えた鳴声と
鋭い目をみた時 ことしが始まった
その鋭い目の中に 白痴の双生児が
住んでいて 雪が降っていた その夜明
老人がのどかな声で
ウグイスを呼ぶのを聞いた
それは あまりにウララカな絶望である
その頃 わたしはしだいに頭をオカサレタ
2ケ月 わたしは頭が重い
頭の首の上にのせる直立人の生活の この
気が遠くなる ここ数万年よ
5月6月7月
緑の薬かげから ときおり猿たちの メスを
呼ぶ声が ムジャキにこぼれてくる
その頃 弟は結婚し スケヤになり
ニックはフロリダで入水し 永遠人になった
また黒人の道鏡マラキがちいさな娘をかかえ
ニュー・メキシコに去った だが
娘テリーは男と連れだって去った若いママ以外は
ビニールのトナカイさえも
こわがった
このような日々にも日々はあるか
すべてはなかった日々にちがいない
永遠に 永遠人が戻ってこない夏は
心臓が冷えつづけ 脈搏が生を不安にした
だが それでもことし
夏は一度だけあった
まんだらな車にのり
公園のけだるい夏の夕幕にいくと
松の木の間に夕陽が赤く
だらしなくブラサガリ
他の猿たちがワイワイさわいでいた
汗はとめどなく流れた
JAZZが熱してきたころ
わたしは 突然 はげしく泣いた
ハイウェィを走るクール・マーキュリ64の
かの男の鼻が ポキンと折れ
粉みじんに とびちる音を
数行の手紙から きいたのだ
秋がきて 星空がキラメキだすと
男根神が コスモスを活歩し始めた
男根は それ自体
精神でも ファルスでもない
が ようやくコスモスには
男の他に 女も在り
子宮もかなりの宮殿であることを知らさせた
そこらにチラバリ思索する盲目の女兎たちを
ベッドに退いたてて泣かせる怪神の
叱咜が 夜ごと ゲンシュクにきこえる
地球のセクスは
ようやく円にちかづき
全きアンドロギュヌスに
なるかにみえる
バラの木から 突然 男の児が生まれる
ナギ
人生がナグ
怠屈より 怠惰より 無気力より
悪徳があるか
それ以上
腐敗も効果を現さないところで ひんぴんと
出没しはじめる彼ら
猿の兄弟は輪姦あそびをし
もはや若くして 年老いた
その頃 Mはまたしても賞をもらう
そばで金貨を憎む人たちがつぶてを投げ合い
泣きくずれる舞踏がある
地下鉄のホームの内側で
ショーギをさす乞食たちのその汚れた豊(ゆた)かさ
外は 冬空である
風邪のひきかける頃
バードがやってきた
ソフィスティケイトな音楽であり
彼自体 ファルスの算数を知っている青年だ
悲劇を笑いころすほどに 彼は若く老いて
クリエイティブなセンチメンタリストだ
POETRYよ
おまえは どうするか
ソフィスティケイトな小鳥にめくるめくか
あるいは
大地のようにはるかから はねてくるカンガルーに
無駄な飼育をするか
カンガルーは 弾力のある後足で
彼の年輪を 遥かに越えたメタファまで
ジャンプする
だが
彼の無邪気さと 無智と
少々の邪気は 彼をまた
もとの地上に戻すのだ
数年前から なりつづけたトランペットが
一層ここのとこ まじかにきこえる
実は 台所から セキセイインコの
呼ぶ声である
古い固いパンをかじり 歴史にパンティをぬ
がせ 皇帝の語らった残酷の趣味の食卓に
ローソクを ともそう
明け方
気がつくとミユリエル
彼女は一人である
そして裸であり
カラのプランディ・グラス に幾万年来の
ない夢 失意 絶望を なみなみともり
いま 朝の
うすむらさきの光を浴びて
階段をのぼっていく (かくして)
古色蒼然として現代は
TODAYのコントンにつっこむ
『白石かずこ詩集』思潮社現代詩文庫
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