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詞集たいまつ №67 [雑木林の四季]

さばく章

                                 ジャーナリスト  むのたけじ 

(2148)詐欺事件で加害した犯人の処罰は当然だが、詐欺そのものをなくしたければ、被害者たちに一番あつい灸をすえることだ。ラクをしてトクをしたい程がなくなれば、そのぶん確実に詐欺が減る。エサに食いつく魚が一匹もいなければ、釣りのどんな名人だって一匹も釣れない。

(2149)何かをするのにあれこれ迷う人を、愚図だ臆病だとけなすなんて飛んでもない。迷って招く害は小さく、迷わないで招く害は常に大きい。それを肝に刻んでおけ。うぬぼれと卑屈は、一〇円玉の表と裏の関係だ。但し一〇円玉は、裏のどちらを見せても値打ちが一〇円だが、うぬぼれと卑屈は互いに値下がりを競う。

(2150)咲いているものは散る。造花は散らない。満開と見えて何も咲いていない。「愛があれば何も要らない」「愛があるから大丈夫」造花そっくりの言葉ですな。人を愛しているのでなく、愛を愛しているのでしょう。生身(なまみ)の者同士なら愛し合うのに時間、場所、ぜに、知恵などが要るだろう。第一のんびりと歌うひまなんかあるまい、愛し合うのに夢中で。愛、これほど貪欲なものはないのに、造花の言葉がまかり通るのは、世がうそで固まった証拠だろう。

(2151)口では何と言おうと心の中で、生きている人体を一体・二体と数えている営業は必ず滅びる。何ものが許そうとも人間が許さない。

(2152)王様と奴隷とは共存関係で、王様が消えたら奴隷も消えるはずだが、そうはいかない。地上に王様がいなくなっても、王様の出てくる童話を子どもたちが喜んで読んでいる間は奴隷は存在し得る。子どもたちが王様の出てくる童話に見向きもしなくなるとき、奴隷は消えている。

(2153)酒を飲まずに酔ったふりをしてごらん。酒を飲みすぎて酔っぱらうばかさ加減が身にしみてわかる。

(2154)一人の男が、品質を確かめると言って石鹸を薄く切った。それを口に入れて、しゃぶった。口から泡がこぼれ始めたら、男の姿がぱっと消えた。夢だった。古今東西で化粧品は無数だが、依然として一個が欠けている。外皮の汚れを取って磨いても、はらわたを清めなければ美しくも綺麗にもなれないことは十分に知っているはずなのに。

『詞集たいまつⅣ』評論社


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