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日めくり汀女俳句 №21 [ことだま五七五]

十一月一日~十一月三日

                                       句  中村汀女
                                                                   文  中村一枝
            
 

十一月一日

葡萄(ぶどう)甘くして山冷の俄(にわ)かさよ
       『番薇糀ふ』 葡萄=秋 冷やか=秋
 メロンパンが流行っているという。私は思わず手を打ってしまった。メロンパンと甘食(あましょく)は私の好きなパンだ。メロンパンは大正の末頃からあるというが、このところ確かにあちこちのパン屋で力を入れて売り出した。品切れも時々ある。以前は店の隅っこに忘れられていたのに。中身にクリームやチョコ、あんを入れるのもあるが、私はプレーン一辺倒。まわりのさっくり感と中身の柔らかさ、甘さを押さえた風味、そしてなぜか心のぬくもりにつながってくる郷愁を秘めた味わい。そして、安い。言うことなしである。


十一月二日

行きずりに稲載せし舌はの痛む
            「汀女初期作品」 稲=秋
「大草原の小さな家」、おなじみローラ・インガルス・ワイルターの自伝的小説。テレビ
で何回も再放送している。私は大人になってからこの原作を読み熱中した。一八七〇年か
ら八〇年代のアメリカの開拓生活を、少女ローラの目を通して描く。「赤毛のアン」や「若草物語」にも共通するが、当時の人々の素朴だが、誠実な、ハートのある暮らしぶりがなつかしい。
 物もお金も少ない時代には、人間はこんなにも豊かで輝きのある生き方ができた。文明
の進歩がもたらした功績は偉大だが、失ったものも大きい。


十一月三日

枯芒(かれすすき)ただ輝きぬ風の中
            『花影』 枯芭=冬
 水道の漏水が二度続いた。四十年以上たった老屋は、家中が動脈硬化、成人病である。その前は給湯設備が故障して、やはり業者にきて貰った。給排水、空調といったものは今は、家になくてほならぬもの、それぞれにからみ合って機能している。
 「これさあ前にやった業者どこの人?」
 「工務店の人が連れてきた人と思うけど」
 「こういう風にハンダづけされちゃうと困るんだよね。それにこの管の取り付けもまずいし」どこかで聞いたような言葉だなあと思ったら、歯医者さん。まったく口の設備も家の設備も、医者も業者も同じことを言う。

『日めくり汀女俳句』邑書林


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