角さんの話№4

 坂上（さかうえ）の又さん

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　立川民俗の会会長　　　三田鶴吉

　　　坂上さんの又さん知ってっぺい。叉さんは十一人兄弟で
　　な。うちがせつなかったから、八人目の子どもからな、おや
　　 じの源ちゃんとおふくろのオトキさんは相談して、それま
　　で隣りのじいさんに名前をつけて貰っていたあけれど、こ
　　んどは自分たちで末ちゃんと名づけたあけれど、またすぐ
　　出来ちゃった。そこでこんどは留さんとつけたあだあな－
　　－そうしたらまた生まれたんで、そのころじゃ珍しいヨシ
    コとつけたあけんど、その時はみんな大笑いしてよ、「源ち
    やん、よせべいか」なんて若衆仲間なんか、わざっと大声
    で話なんかしたあもんだよ。それだあけんど、二年もしね
    ぇうちに、また生まれたもんで、とうとう叉さんは叉一と
    つけられただとよ。そんときオトキさんは五十を過ぎてい
    たあから、叉二はできなかったなあ。

　　せつない＝生活が苦しいこと。
　　末吉、末子、留吉、トメ子、叉一、与一などどこの村でも多い名前だった。

『角さんの話』けやき出版