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図書館の可能性№2 [アーカイブ]

 個人と地域社会やの図書館サービスの効果
                     昭和女子大学教授 大串夏身
  図書館の資料を人間が活用することによって、また図書館で入手した知識・情報を人間が活用することによって、資料・知識・情報はさまざまなことをもたらす。
 それは図書館に来館して、直接本棚を見て、自分が必要とする資料を借りたり、必要なところだけコピーして帰る、という利用からはじまる。また、図書館司書に、わからないことや知りたいこと聞くというところからもはじまる。そのはじまりは、地域社会にとってとるにたらない些細なできごとである。しかし、それが個人の生活や仕事にプラスの効果をもたらすこともある。もう少し積極的に言うと、図書館のサービスが利用されることを通して、何らかの効果を個人に、そして多くの個人を通して地域にもたらすと考えられる。また図書館がもたらす効果はきわめてささいなものであり、そのささいなものが地域に無数に存在することが、地域の質を高めることにつながる。     
そのささいなできごとを具体的に見ていくと次のような事柄である。                 
     読書の習慣を身につける。
      自らが学ぶ動機を得られる。                
        図書を通してさまざまな事柄に興味を持つ。               
        1冊の図書との出会いがひとりの人の人生を決める。               
        日常生活に必要な知識を得る。              
        購入しようとしている土地の周囲の概況や水害などについて知る。               
        ビジネスや仕事に必要な知識を得る。               
        取引先の銀行や経営状態を知る。               
        「六法」に記載されている判例の全文を入手する。              
         派遣労働の雇用条件について知る。              
         講演を依頼しようとしている評論家の考え方を知る。              
         傘の柄の実用新案にどのようなものがあるか知る。              
         のどあめの商標にどのようなものがあるのか知る。            
         かかりつけの医者に処方してもらった薬の飲み方と副作用などの注意点を知る。                       宿題について相談にのってもらう。              
         図書館などの公共施設の利用の満足度を調べたアンケート調査結果を知る              
         ほかの自治体での取り組みを知る。  
 以上は最初の4つを除いて実際に図書館に寄せられ、質問事例からのもので、図書館はこれらの質問に所蔵資料やオンラインデータベース、インターネット情報源を用いて回答している。
少し説明しておこう。
●「読書の習慣を身につける」
いつでもどこでも自分のライフスタイルに合わせ、図書を読むことで、読書の習慣化して、図書を通 してさまざまな知識や情報を得ることができる。それだけはなく、知識を蓄積すること、その知識を活用することで新しい知識を作り出すこともできる。
● 読書の習慣を身につけることは、幼児や小学生にとって必要なことである。それは地域での人の育成につながる。さらに中学生・高校生に読書を習慣づけることは、日本の課題でもある。読書の重要性は、情報化社会を迎えて改めて認識されている。「子どもの読書活動の推進に関する法律」や「文字・活字文化振興法」が制定・公布された背景には、その重要性に対する認識がある。  
図書館が身近にあり、新刊書が数多く本棚に並んでいて、いつでも借りて読むことができる。こうし た条件があれば、読書の習慣がより多くの住民のものになる。その中でいつも手元に置いておきたい 生涯の友となる図書を見つけ出し、書店で購入して自分の部屋の本棚に並べる。これも、読書習慣を構成する重要な要素である。                                                  

●「自らが学ぶ動機を得られる」「図書を通してさまざまな事柄に興味をもつ」           これらは公共図書館の特性を十分生かした効果である。公共図書館は地域の中で豊富な図書を所蔵して、本棚に並べ、誰もが自由に見て、手にすることができる。本棚には知識の体系にしたがって並んでいる。本棚を見ていくことで、さまざまな事柄に興味を持つことができる。ほとんどの日本の図書館は、利用者が興味を持つような図書や雑誌を入り口の近くに並べている。ところが、図書館によっては、そういった種類の図書や雑誌は、誰もが探しにいくいので、奥に並べてそれを探しにいく途中でいろいろな図書を見ることで、他の分野の図書にも関心をもってもらおうとしている図書館もある。                    これは本棚に並んでいる図書が興味をかき立て、知識の体系は興味の連鎖ともなる可能性をもっていることを示している。                                                       多くの図書を見て興味や関心をかきたてられ、それが自ら学ぶ動機になることもある。また、カルチャーセンターや公民館などの講座で学びながら、図書館の図書でさらに学習を深め、興味を持って学習を継続する可能性もある。                                                      

●「1冊の図書との出会いがひとりの人の人生を決める」                     公共図書館での1冊の図書との出会いがひとりの人の人生を決めるということもある。例えば、英文 学の名著と出会ったことを契機に英文学者を志すとか、科学の図書との出会いが、技術者になることを志し技術者になるとか、である。人生を決めなくても、その人の生き方に大きな影響を及ぼしていることもあるだろう。生きる力を得るということもあるにちがいない。                             ●「日常生活に必要な知識を得る」                               図書館の相談カウンターや電話、メールなどで質問すれば、さまざ まなことに答えてもらえる。日常生活にかかわるさまざまな事柄でわからないことがあれば気軽に聞けばいい。各種の辞典・辞書やインターネット情報源を駆使して、適切な回答を寄せてくれる。調べ方も教えてくれる。この調べ方を教える・案内するということは、利用者が自ら積極的に図書館を利用しようという意欲を高めることに結びつく。

 ●「購入しようとしている土地の周囲の概況や水害などについて知る」。                           これも日常生活の中での事 柄と言える。都市部の図書館では、「住宅やマンションを購入したいが…」ということで、特定の地域の各種の図面。(地図など)を求められることが、また土木会社から特定地域の埋設物に関する情報を聞かれることもある。後者はかなり難しい。水道管、ガス管、共同溝などがいつ頃どこに敷設されたか、というもので、難しいというのは、だいたい関係の機関で調べてわからなかったので、というケースがほとんどだからだ。調べ方にもよる。同じ資料でも図書館司書が相談に乗りながら調べるとわかるということがあるからだ。あきらめずにチャレンジしてみたい。                      前者は各種の主題地図 が必要で、所蔵していない場合は、どこにいけば閲覧できるが案内することになる。どのようなものが求められるか考えてみると……。土地の形状、店舗、病院、建物、公共施設などは市街地図、地形 図、住宅地図、航空地図(空中写真)で、地質・地盤は地質図・地盤図で、将来の計画は都市計画図 で、災害などは治水地形分類図、都市圏活断層図で、地価は公示地価図、取引地価図(実勢地価図)、路線値図、税金は固定資産税課税台帳などで調べる。                                  なお、地図に関する質問では、地域の昔から 今までの変遷がわかる図面がないかという質問がある。調べ学習の関係で生徒からよく聞かれる質問 で、また、これは大人も関心のあるところで、地域や商店街の活性化事業のためにも求められる。                                                     ●「ビジネスや仕事に必要な知識を得る」                            これには各種のものがある。                                   ○「取引先の銀行や経営状態を知る」印刷物では帝国データバンクや東京商工リサーチ発行の資料で、もっと詳しくまた新しい状態を知りたいのであれば、オンラインデータサービスで調べる。      ○「六法に記載されている判例の全文を入手する」 最高裁判所高等裁判所のものは「判例検索システム」(裁判最高裁判所作成、http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010?action_id=first&hanreiSrchKbn=01)の検索エンジンで検索する。                                   地方裁判所は最近のものしか検索できないので、印刷資料か法律専門のオンラインデータベースで調る。○「派遣労働の雇用条件について」 関連の図書をまず読んで、新しい法律が改正されていないかどうかは「法令で提供システム」。(総務省作成 http://law..e-gov.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi)で、最新の条文を確認して、改正されていれば、法律改正時期を調べ、法律・労働の専門雑誌で解説がないかを調べる。                                             ○「講演を依頼しようとしている評論家の考え方を知る」                                     これは「e-hon」(トーハン作成、 http://www.e-hon.ne.jp/bec/EB/TOP)や「本やタウン」(日本出版販売作成、http://www.honya-town.co.jp/hst/HT/index.html)などの新刊書のデータベースの著作がないかを調べ、あればすぐにi入手する。雑誌記事索引やインターネットのページ検索でフォローする。         ○「傘の柄の実用新案にどのようなものがあるか知る」「のどあめの商標にどのようなものがあるのか知る」これは地域の企業などにとっては非常に重要な事柄である。特許庁の「特許電子図書館」(http://www.jpdl.go.jp/homepg.ipdl)で調べる。キーワードで簡単に調べることができる。         以上のように仕事に役立つのも図書館である。インターネットやオンラインデータベースが普及してきて、市町村の図書館でも回答できる範囲は広がった。わからなければ、都道府県立図書館を中心とし図書館協力ネットワークを活用して調べてもらうことができる。                                     

●「かかりつけの医者に処方してもらった薬の飲み方は副作用のどの選手注意点を知る」            医薬分業で、薬は処方箋を処方する薬局からもらうようになった。薬を受け取るときに薬剤師から説明を受けるが、それほど詳しいものではない。聞くだけでもメモを取らないから、家に帰ったらほとんど忘れてしまう。そうしたとき、もっと知りたいと誰でも思うことだろう。図書館に問い合わせれば、薬の事典などで詳しく教えてもらえる。                                                                  インターネットでは、「お薬110番」(ファーマフレンド作成、http://www.jah.ne.jp/~kako/)などの薬のデータベースで検索して効用や副作用や飲み方の注意事項などを確認する。薬の副作用ものについての最新情報は厚生省労働省厚生労働省のページ「医薬品と安全性関連情報」(http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j.html)で確認できる。                                      ●「宿題について相談にのってもらう」 これも図書館は資料があるので、当然相談に応じる。これは学校の役割だという考えがあるが、土曜・日曜など図書館がヤングアダルトコーナーに、大学生のアルバイトを配置して相談に応じるようにするといい。土日は学校が休みだ。放課後も同様にすればいい。教科書や教材をおかないという図書館があると聞くが、それで学校教育支援ができるのだろうか。           図書館司書が、日常的に学校のカリキュラム分析・学習をしていないということの方が問題だ。       また、これに関連して資格関係の図書は置かない、資格の問題集は置かない図書館もある。時代がわかっていない。これからの情報社会では、資格、特に知的なものに関連した資格はきわめて重要で、専門職をきちんと処遇し、活躍の場を広げることが知的な社会をより効果的で豊かにしていくことにつながるのだ。当然限定的にでも資格の問題集はおくべきだろう。
●「図書館のどの公共施設の利用も満足度を調べたアンケート調査を知る」 市役所からの質問である。「ほかの自治体での取り組みを知る」というのもある。印刷資料やインターネットなどを駆使して調べる。これらは図書館を利用した人が、利用したことを生かしてプラスの何かを社会のなかで生み出すという意味での<図書館の可能性>である。
                          『図書館の可能性』青弓社
         


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