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多摩のむかし道と伝説の旅 №110 [ふるさと立川・多摩・武蔵]

        多摩のむかし道と伝説の旅(№26)
   -御岳渓谷、鳩ノ巣渓谷、数馬峡を辿る奥多摩への道-4
              原田環爾

 瓜生卓造著「奥多摩町異聞」によれば、明治から昭和初期にかけての筏師の有様を概略こんな風に記している。管流しといって急流を1本1本ばらばらに下ってきた丸太を古里で引き揚げ角材に削り(江戸時代は丸太のまま)110-1.jpg筏に組んだ。材の長さ3m、幅1.8m、これを5つ繋げて長さ約15mにした。これを1枚と称し約120本の材木が組まれたそうだ。筏には古里から沢井・軍畑辺りまでは1枚に2人の筏師が乗り、ここを乗り切ると後は1人で操る。青梅の千ヶ瀬で3枚に繋いで全長50mとし、羽村の堰に至ると月6回しかない堰開けを待つ(江戸時代は月3回)。堰を通れば次は拝島泊り、次いで府中か調布、二子か宿河原と順に下って六郷に着いた。筏師のいでたちは半纏に袴下、地下足袋、日の強い時は菅笠、雨の日はミノを着ていたという。行きに4日帰りに2日の旅だったという。
 滝沢 博著「続 多摩」に筏師達が唄ったというこんな面白い歌が紹介されている。
  ♪きのう山下げ、今日青梅下げ
  明日は羽村の堰おとし
  堰をおとせば府中の宿で
  可愛いあの子が手で招く
110-2.jpg  筏乗り実で乗るかよ、浮気で乗るか
  上木を流して実で乗る♪
 橋を後にすると一転上り坂となる。古びた集落をうねうね上ると青梅街道直下の平坦部にでる。ここで道は二手に分かれ、右は旧青梅街道の続きで、このまま坂道を上って現青梅街道に合流する。一方左の下り坂を採れば渓谷へ向かう道だ。すなわち坂道を下って行くと樹間から深い谷に架かる赤い寸庭橋が姿を現す。寸庭橋の橋上から先の古里附の土場はもちろん、緑深い渓谷の景観を楽しむことが出来る。橋を渡ると右岸に渓流沿いの細い小径がある。そこを進むとやがて渓流を離れて深い山へと入って行く。110-3.jpg残念ながら鳩ノ巣までの水辺の道はなく山歩きとなる。従って今回はこの道は避け、一旦元の寸庭橋に戻って先に述べた青梅街道に出る道をとることにする。
 青梅街道を200~300m進むと大きく左にS字状にカーブする。この付近に舌状台地が南へせり出し、それに伴い渓谷が大きくS状に蛇行していることによる。この辺りは棚沢と呼ばれる地域だ。舌状台地への分岐道を過ぎる辺りに奇妙な名のバス停がある。バス停の名は「将門」となっている。これは右手山腹に平将門ゆかりの神社があることによる。バス停横に神社へ向かう細い急階段の参道がある。参道を登って行くとすぐ樹林で覆われた暗いジグザグの山道となる。やや開けた踊り場のような所に将門一族の供養塔が立っている。供養塔からは下方に先の舌状台地が望める。古110-4.jpgくは将門原と呼ばれた所だ。鳩ノ巣へ向かう山腹を縫うような旧青梅道が現れる。旧青梅道を避けて「ゆきひめらん参道」と名付けられた細い参道を上って行くと程なく将門神社の鳥居の前に来る。深い樹林で覆われた実に寂しい神社だ。鳥居をくぐり急斜面の石段を上って行くと将門を祀る社殿がある。平将門と言えば10世紀の初頭、腐敗した京の中央政権に反抗して東国で反乱を起こした坂東の英雄だ。承平天慶の乱という。天慶2年(939)常陸の国府を襲撃、更に坂東八ヶ国を次々落とし自らを新皇と称して独立王国を宣言した。驚いた朝廷は将門討伐の命を発し、それに応じた下野の豪族藤原秀郷によって討たれた。そんな将門の嫡男平良門が天徳年中父の遺跡を慕って棚沢に来て、父の肖像を彫刻して納めたのが将門神社の始まり110-5.jpgという。神社は幾多の変遷を経た後、昭和50年棚沢に将門神社が再建された。社殿の左手には樹々が払われた小さな削平地があり、そこに平将門の愛姫御幸姫の観音像が立っている。観音像の前方には遙か下方に先の将門原が望める。伝説によれば将門討滅後、御幸姫は棚沢の将門原に移り住み。亡くなるとここに御幸塚が築かれた。塚は昭和14年の青梅線の鉄道工事の折撤去されてしまったが、将門神社が再建されると境内に御幸姫観音像が建立されたという。
110-6.jpg 元の青梅街道に戻り分岐道から舌状台地の将門原に入る。渓谷の奥多摩には珍しい広々した平坦地でそこに集落が形成されている。やがて道は右へカーブし、ほどなく大きく蛇行した深い渓谷に架かる鳩ノ巣大橋に来る。橋の上からは先の棚沢の将門神社がある山腹を遠望することができる。やがて丁字路で坂下の集落に入る。右折し坂道を道なりに下って行くと。先の大きく蛇行してきた渓谷に架かる雲仙橋の袂に来る。雲仙橋の中程から見下ろすと、鳩ノ巣渓谷は目もくらむほどの深さだ。(この項つづく)


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