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妖精の系譜 №1 [文芸美術の森]

中世の古文献にひそむ妖精

      妖精美術館館長  井村君江

中世に記録された妖精像
 妖精物語や妖精信仰に関して、正面から取り扱おうという意図は持たずとも、年代記や旅行記、病理学などを書いているうちに自ずと妖精に触れている貴重な記録が、古い文献のなかに見出せる。それらはもちろん当時の民間の伝承と関わりを持っているのであるが、書き記している人々が僧侶や軍人、医師などの知識人であることは、十二、三世紀頃には妖精についての話がかなり広い階級層に行きわたっていたことを示すものであろう。もちろん記述者が妖精の存在をすべて信じているわけではなく、ある者は不思議な話を聞いたという間接的な記述の仕方で自分の責任は逃れながらも興味を示しており、また学者は、妖精の話は迷信であるとして斥けたり、批判的ではあるが、例として掲げていくのである。
 しかしこれらの妖精の記述が、今となっては貴重な中世時代の妖精像の記録になっているわけである。
   こうした古い文献のうちでもっとも重要であり、興味深いと思われるものを、古いものでは十二世紀のジラルダス・キャンプレンシスが記録している挿話から、新しいものでは十七世紀のロバート・カークの華作まで八つ選び、そこに記述されている妖精像を見てみよう。なお、中世年代記のうち、アーサー王を中心に魔法使いマーリンや湖の貴婦人、モルガン・ル・フエなどを記しているウォルター・マップの友人であったモンマスのジェフリーの『ブリテン列王伝』は、「アーサー王伝説のフエ」の項で触れることになろう。
 またバラッドやロマンスに現われてくる妖精たちも、独立させて扱いたいので、ここでは主な古文献を辿りながら、中世からエリザベス朝時代、十七世紀、ピューリタンの時代までの妖精像の変遷の特色を見ていくことにする。

扉イラスト.jpg

主な古文献
(1)ジラルダス・キャンプレンシスGiraldus Cambrensis(de Barri)(一一四六~一二二〇?)『ウェールズ旅行記』(Ltirerarium Cambriae 一一八〇)
(2)ニューバラのウィリアムWilliamof Newburgh(Newbridge)(一一三六~九八?)、コギシァルのラルフRalph of Coggeshall(十二、三世紀頃)『中世年代記』(The Medieval Chronicles)
(3)ティルベリーのジャーヴァスGervase of Tilbury (一一五五~一二三五?)『皇帝に捧げる閖話集』(Otia Imperialia 一二一一)
(4)ウォルター・マップWalter Map(-一二七~一二〇九)『宮廷人愚行録』(De Nugis Curialium  一一八二~九二?)
(5)レジナルド・スコットReginald Scot(一五三五?~九九)『魔術の正体』(The Discoverie of Witchcraft  一五八四)
(6)ジェイムズ一世King James I(一五六六~一六二五)「悪魔学」(Daemonjogie 一五九七)
(7)ロバート・バートンRobert Barton(一五七七~一六四〇)『憂鬱病の解剖』(The Anatomy  of Melancholy  一六二一)
(8)ロバート・カークRobert Kirk(一六四四-九二?)『エルフ、フォーン、妖精の知られざる国』(The Story of Commonwelth of Elves, Fauns and Fairies  一六九一)

『妖精の系譜』新書館


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