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続・対話随想 №34 [核無き世界をめざして]

  続対話随想34 中山士朗から関千枝子様へ

                   作家  中山士朗

 今回、お手紙の返事をしたためようと思った矢先に、西田書店の日高さんから、私たちの 『ヒロシマ往復書簡』第1州から第Ⅲ集までを総括した書評が掲載された「図書新聞」が送られてきました。
ぞのなかに
 <核兵器禁止条約の実効性を要求し続けてきた関は、政権末期とはいえ、現職アメリカ大統領として初めて原爆地を訪れたオバマの広島訪問をめぐる事象に厳しい目線を向けていく。>
 評者が、最も惹きつけられた個所の説明がされていました。
 そして、
 <「核なき世界」という道筋に対しブレーキをかけているのは、他ならぬアメリカ政府をはじめとする核保有国の諸政府と、アメリカに追随するだけの日本政府ということは明確な事実だ。>
 と言明していました。
 その言葉と呼応するかのように、トランプ政権はこの二月二日に「戦略見直し」として小型核兵器開発を明記しました。つまり「核なき世界」の放棄を宣言したのです。
 さらに私が驚いたことには、この米国の戦略指針の見直しについて河野外相は、「米国による核抑止力の実効性の確保と、我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」と表明しているのです。唯一の戦争被爆国として、核廃絶・核不拡散を訴えてきた主張との整合性が問われる発言内容ではありませんか。
こうした事実を整理しながら考えていますと、現在の各国の政治家に戦争を体験した者がいなくなったということでしょうか。そして、歴史から学ぶことを忘れた者に、政治を委ねる恐ろしさを感じないではいられません、先日、朝日新聞の鷲田清一氏の「折々のことば」の中に、元総理大臣・田中角栄氏のことばが引用されていました。戦争体験者が政治の中枢にいる間は大丈夫だ、平和について語る必要はないという趣旨の発言でした。それにつけて思い出されたのは、つい先頃亡くなった野中広務氏が反戦の信念を貫いて政治活動に終始したという新聞記事でした。
そして、この手紙を書いている最中に、古庄ゆき子さんから大分の「赤とんぼの会」紙が送られてきました。東京で開催された、女性「9条の会」主催による「盧溝橋事件から80年/戦争の始まりを考える」会の記事が載っていました。その中に関さんが講演された「教育勅語ってなあに」が古庄さんによって要約、解説されていました。時を同じくして、関さんの手紙が届きました。
 手紙には、国連コーディネーターであり、平和活動家であるキャサリン・サリバンさん、川崎哲さん、山崎玲子さんが語る「なぜヒバクシャを語り継ぐのか」という会、女性「9条の会」の」山内敏弘一ツ橋大学教授を招いての学習会、さらに竹内良男氏の会主催の元京大教授・小出裕章先生による放射能に関する講和などに出席されて、絶えず、見識を深めておられることを改めて知りました。
 それに比し、同じ被爆者でありながら、今の私は、限られた余命をいかに生きるか、そのことのみ考えて暮らしているのです。以前、手紙に書きましたように書ける間は書く、つまり書くことが私の命です。被爆後、精いっぱい生きてきたことの証として書き残しておきたいのです。
 こうして関さんへの手紙を書いている最中にも昨日(二月一〇日)の大分合同新聞・朝刊に河内光子さん訃報記事が出ていました。
 
 河内光子さん  一月二二日、副甲状腺腫瘍のため広島県廿日市市の病院で死去。八六歳。広島市出身。葬儀、告別式は近親者で営んだ。一三歳の時、爆心地から一・六キロにあった旧広島貯金支局で被爆。約三時間後、現在の広島市南区にある御幸橋でセーラー服姿のまま応急処置を受けている様子が中国新聞カメラマンの写真に収められていた。

 河内光子さんにつきましては、私たちの『ヒロシマ往復書簡』第Ⅲ集の70「閉ざされていた写真」のなかで書いています。これは、関さんも私も観ましたNHKテレビ番組「きのこ雲の下で」のなかで、この写真が七年間閉ざされていたという解説があり、関さんがNHKに問い合わせたことから話題となったものでした。関さんも私も直後にその写真を見た記憶があったからです。
 その写真が被爆後二八年経った昭和四八年六月二三日、広島平和記念館で開かれたヒロシマ・ナガサキ返還被爆資料展の会場で「一番手前にいる女学生(三角エリに一本線が入ったセーラー服)は私です」と名乗り出た婦人がいた、と報じられたことからNHKはそのように解説したのでした。今、橋の西詰めには,この写真を嵌め込んだ記念碑が建てられています。
 このように書簡を交わすたびに、私たちと同年代の被爆者の死を伝え聞かざるを得ませんが、生かされている間は筆をとり続けたいと願っています。


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