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続・対話随想 №32 [核無き世界をめざして]

   続対話随想32 中山士朗から関千枝子さまへ

                   作家  中山士朗

 新しい年に入っての関さんのお手紙、しみじみと読ませて頂きました。
 同年代の被爆者の死、これまで核廃絶の運動を支えてくださった多くの人々の死が告げられていました。そうした状況の中で、丸木美術館の小寺隆幸・美和ご夫妻の「2017.12.7〜15オスロ訪問記」は貴重な記録だと思いました。とりわけ12月10日の授賞式とスピーチ、講演の内容は、記録にとどめ、後世に引き継がなければならないことだと思いました。関さんが提案されたように、知の木々舎さんにお世話願えれば、私たちの往復書簡がいっそう生きてくるのではないかと思われます。
 辰濃和男さんの死去、昨年の12月13日の朝日新聞で知りました。辰濃さんは75〜88年にかけて「天声人語」の執筆を続けられ、2015年から昨年4月までたびたび沖縄を訪れ、体調を崩した後も車椅子で取材を続けておられたことを記事で知りました。
 私は、辰濃さんが執筆されていた当時の「天声人語」は、丹念に読んでいました。その美しい、余分なものを削り取った文体、透明な感性に惹かれていました。関さんの手紙にありましたように、私がエッセイスト・クラブ賞を受賞した日、会場で選考委員として私の文章を褒めてくださいました。私にとって終生忘れ得ぬ記憶となったのでした。今回の関さんのお手紙によって、辰濃さんが私たちの『ヒロシマ往復書簡』を読んでいて下さったことを知り、大変嬉しく思いました。
 余談になりますが、私は吉村昭研究会の機関誌に「私の耳学問」と題して、吉村さんが日常何気なく話された言葉を思い出しながら、連載(現在16回)で書いておりますが、このたび必要があって辰濃さんの文章を引用したものを書きました。
 引用したのは、2004年に岩波書店から発行した日本エッセイスト・クラブ編『父のこと 母のこと』の、辰濃さんの「あとがき」の言葉でした。受賞式の日、吉村さんも出席してくれていましたので、辰濃さんの私の作品への言葉を聞いていました。
 その本ができた時、私は吉村さんに送りました。折り返し吉村さんから「良かったな」というお祝いの電話をもらいました。
 この本は、日本エッセイスト・クラブ賞が五二回目を迎えた記念に作られたもので、受賞作一五〇編の中から選ばれたものでした。このたび改めて開いてみますと、二十名の人の作品が収録されていて、その中に関さんと私の名前がありました。ほかに、小林勇、森茉莉、竹田米吉、萩原葉子、庄野英二、大平千枝子、石井好子、安住敦、坂東三津五郎、芥川比呂志、高峰秀子、沢村貞子、篠田桃紅、渡辺美佐子、志村ふくみ、中野利子、柳沢桂子、岸田今日子さんなど、著名な人の名前が連なっています。

 そのときの<あとがき>です。
   娘が父のこと、母のことを書く。
   息子が母のこと、父のことを書く。
   そこにはさまざまな形で描かれるさまざまな
   日常のできごと、日常の物語があるのだが、
   いってみればそれは書かれる側、
   つまり母であり、父である人の
   <愛する>という動詞の具現なのだ。
   親と子の間にもろもろの感情――反発、怒り、
     嘆き、悔恨などなどなどが含まれていようとも、
     子が描く父、母の像はなべて私には
     たまらなくなつかしく思える。
 私はこの文章を引用した吉村研究会の四十号記念誌を日本エッセイスト・クラブ事務局の飯山千枝子さんに送りました。辰濃さんのお目に止まれば、と思ってのことでしたが、かないませんでした。
 その直後に、辰濃さんの死を新聞で知りました。十二月六日、老衰のため東京都内の病院で死去。享年八十七.私と同年だったことに、感慨深いものがあります。ここで改めて。ご冥福をお祈りいたします。
お手紙にありました佐伯敏子さん、丸浜江里子さんの死がありました。
 佐伯さんにつきましては、昨年十一月十九日の朝日新聞、鷲田清一氏の「折々のことば」には手記「ヒロシマに歳はないんよ」から、 
      ヒロシマには歳はないから。
      あの日のまま何十年たってもあの日そのまま
      
 の鋭い言葉が引用されていました。
 今一つは、ローマ法王が被爆写真の配布を指示したというニュースでした。
 この写真はナガサキで撮影されたもので、亡くなった弟を背負った少年が火葬場で順番を待っている姿を映したものでした。この写真をカードに印刷し、「戦争が生み出したもの」との言葉をつけて広めるように指示したとありました。そして「かみしめて血のにじんだ唇により悲しみが表現されている」、また「これが戦争の結果」だとメッセージを送っています。法王は昨年十一月に核軍縮をテーマにしたシンポジウムの参加者に「核兵器は人類の平和と共存しない」と述べるなど、核廃絶を求めるメッセージを世界に投げかけていると報道されています。


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