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往きは良い良い、帰りは……物語 №3 [文芸美術の森]

その3 『親子丼』と『風の盆』と二次会のことなど。

                                                       コピーライター  多比羅 孝

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*ひとくちメモ①
前回の席題『海月(くらげ)』は大失敗でした、と私・孝多は書きました。
しかし、その後、孝多は反省して別案、つまり改作の5・7・5を『海月』で作ったでしょうか、となると、これが、「いいえ」なのですから困ったものです。
いや、それでいいのかも知れません。冗談まぎれに申せば、句会は、すべてについて≪一期一会≫。そして≪去るものは追わず≫です。
いずれにしても、句会のあとで、もう一度、ひねりなおすなどということをしていたら≪プロになってしまう≫という危険性がありますからねえ。
そして、この、作りなおさない、つまり、作りっぱなしという傾向は、こふみ会のメンバー全員に共通して言えるような気がしてなりません。
こふみ会が長続きしている要因のひとつには、この全員の、愛すべき≪不真面目さ≫があるようです。
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≪平成25年8月26日≫
早いな。もう句会の案内状が届いた。おお、今度もFAXではなくて、封書だ。いや、更歩氏が幹事のときは、いつも、封書だ。
氏は、FAXでの案内状なんて失礼だという信条をお持ちのようなのだ。厳しく自己を律する人だ。尊敬してしまう。
封を開くと、万年筆による手書きの文字。ボールペンじゃなくて、表情ゆたかな、ほっとするような「旧知の文字」だ。
どれどれ、兼題は、と見れば『親子丼(オヤコドン)』および『風の盆(カゼノボン)』と片仮名も添えてある。あそびごころの「ドン・ボン合わせ」であろう。

もうひとりの幹事、不実氏はどうしたのかな? 不実氏のお得意は「歌もの」だ。いつか、氏が幹事だったとき、パティ・ペイジの『涙のワルツ』が兼題として出された。みんな、びっくり。季節感はご自由にと。
次ぎのときには、石川さゆりの『天城越え』が兼題。その次ぎに幹事になったときには、八代亜紀の『舟唄』だった。いずれも季節は、いつでもよろしいということで……。(何故か、八代亜紀のときだけ、『八代亜紀さまの舟唄』と、「さま」が付いた。)

とすれば、今回は、復活の『サザン』かしら、惜別の(8月22日逝去)の『藤沢嵐子』かしら。それとも11月に来日公演予定の『ポール・マッカートニー』かしら。不実氏によって、何か、当日の席題に仕掛けが組まれそう。いわゆるサープライズとして。

いやいや、その詮索はさておいて、先ずは出席の「返信レター」だ。 それを送らなければ。例によって、白川先生にお出まし願って、下記のとおり。

こふみ会3.gif

 
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*ひとくちメモ②
こふみ会の開催は、よほどのことが無い限り、毎月、第二水曜日、神楽坂の「うなぎの老舗・志満金」にて、夕方6時から。と決まっています。よほどのこと、というのは、たとえば会場の志満金側の、どうしてもという都合。あるいはこちらサイドの吟行会などの場合です。たまたま今年は、変則が2回続きました。
7月10日(第2水曜)勝どき・屋形船にて。
8月21日(第3水曜)神楽坂・志満金にて。
そして今回、9月11日。通常にもどって、第2水曜日に志満金にて、です。
このように、日時と会場が一定しているのは便利なことです。強みです。長続きする秘訣のひとつとして挙げられるでしょう。(美しい仲居さんたちも、こちらのことを、よく知っていてくれていて、しかも控え目。嬉しくなります。店長さんにも感謝!)
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兼題の『親子丼』については、ちょっと、困ったなあ。
食欲の秋ということで如何にも「どんぶりめし」なのですが、考えてみれば残酷ですよね、この呼び名。鶏の親〔肉)と子(卵)を一緒に殺して、一緒に食べてしまうというのですから無慈悲です。どうしても、石川五右衛門の一族釜ゆでのことを思い出してしまいます。
また一方、鶏肉の代わりに牛肉や豚肉を使ったのは「他人どんぶり」とか「継子(ままこ)どんぶり」とかと言うそうな。これまた、無神経じゃないか、と。食べるものに対して、ですよ。美味しく食べられますか?
と、料理の名称について考え始めてしまい、『親子丼』の5・7・5づくりからは、どんどん、それて行ってしまう。
そしてついには、ムカシ、秋田のおばさんが作っていた「いとこ煮。小豆(あずき)と南瓜(かぼちゃ)」を思い出したり、「壺焼き」「刺身」「活きづくり」「焼き豚」「焼き鳥」などという「名称」から、その「実態」と「味覚」を思い、さらにその「連想」に興奮したりして、ひとときも、ふたときも過ごしてしまう……。

『風の盆』にしても同じようなこと。
以前、或る友人が私・孝多に嘆きつつ語ってくれたことがありました。曰く「風の盆、ひどい目にあったよ。八尾へ行ったんだけど、町のどこで踊りをやってるんだか、ちっとも分からない。あっちへ行き、こっちへ行き、くたびれ果てたよ。ろくに見ることも出来ずにさ。」

それを思い出していましたら≪今は、こうですよ!≫≪お客さまのお悩みは解消されました!≫という広告に出会いました。9月2日の読売新聞です。広告主は、旅行の企画会社・クラブツーリズム株式会社。偶然です。驚きました。広告文の主な部分をそっくり、そのまま引用しましょう。下記のとおりです。

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胡弓の音色と優美な踊りの競演……
越中八尾の全面協力のもと、“おわら風の盆”を特別に再現。
月見のおわら(9月28・29日の2日間)
たっぷり2時間観賞。『月見のおわら』6つの魅力。
①おわら風の盆では決して見ることができない複数の町内の踊りが一つの町内でいっせいに町流しを行います。
②おわら風の盆は雨天時には中止になりますが、当イベントは雨天時でもステージで舞台踊りを披露! * 台風、大雨等荒天時は、やむを得ず内容の変更または中止となる場合がございます。
③実際の町内で本物の踊り手による踊りをじっくり観賞できるイベントです。
④本物の踊り手と輪踊りの体験や講習を受けられます。
⑤本物の町流しは自然発生のように始まるため、確実に見られる場所はわかりません。しかし、当イベントは踊りの場所と時間が確定していますので、必ず見物できます。
⑥「月見のおわら」クラブツーリズムオリジナル手ぬぐい付き。
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そうか! 従来どおりの『おわら風の盆』が終了した3週間ほど後に、それとは別な、『月見のおわら』が、このツア-客のために開催される、というわけか。
嘆いていた友人に知らせてやりたいな。殊に、上記の⑤のところなど。でもでも、黙って、そっとしておくのも≪武士のナサケ≫かな?

ところで孝多は、と申せば、風の盆に行ったことはありません。或る教え子の出身地があちらだったため、何度か、お誘いを受けていたのですが、ついぞ今日まで実現せず、残念。まだ見たことのない鳥追いの編笠(綾藺笠)と、聞いたことのない胡弓の音に、強く心を惹かれています。

と言えば、どうでしょうか。いつもと変わらないでしょうね。知らないことでも何でも、平気で5・7・5にしてしまう「こふみ」の流儀に従って、ためらいもなく、孝多は9月の句会に出席して、ヘンな思いのもとに、ヘンな句を作って帰るのではないでしょうか。知らないくせに……。ともあれ、いつも、往きは良い良いなのですから。

そして当日≪平成25年9月11日・水曜日≫
句会のあと、例によって例のメンバー5名が、二次会へと繰り出しました。何と、この日が五七さんの誕生日。そして見事、トータルの「天」であり、「花」も三輪の同点トップ!!凄い!! それを祝って、カンパ~イ!乾杯! おめでとう!
そこで、私・孝多はタイヘンなことを聞いてしまいました。

「気が付きませんでしたか、孝多さん。今回の兼題も歌と食べ物の≪セット≫でしたね。歌好きの不実さんが幹事のとき、よくやることですよ。『パテイ・ページ』のときは『カレエうどん』が、ふたつ目の兼題でしたよ。それと同じで、今回の兼題は、ひとつが『風の盆』で、もうひとつが『親子丼』という≪セット≫ですよ。」
「ええっ、それ、どういうこと?」
「石川さゆりのヒット曲に『風の盆・恋歌』というのがあるんです。その歌と『親子丼』が≪セット≫です。」

「あ~、そうでしたか。石川さゆりの歌は、まったく知らなかったけれど、不実さんて、面白いことを考える人ですねえ、つくづく感心してしまう……。」
そうなんですよ、何しろ孝多は、今回は兼題にも席題にも「歌」が出て来ないので、どうしたのか、不実さん、元気が無いのか……などと思ってしまい、とんでもないことで、失礼申し上げました。

このハナシに加えて孝多が、二次会の席でびっくりしたのは、今や、一般の多くの人たちが何でも、かんでも、調べるとなったら、すぐに、先ずは第一に、スマホやらネットやらで当たるというハナシ。それはそれで、分かるのですが、こふみ会の会員たちも例外ではないでしょうと聞いて驚きました。
そして、その調べだけで十分、充分、十二分、満足しているだろうというハナシ。だから『風の盆』にも行ったような気持ちになっている、それで作っている!! うへぇ~っであります。

このブログの前半にも書いたとおり、私・孝多は、自分が風の盆に行ったことが無いということに固執しています。
でも、しかし、≪知らないことでも、平気で5・7・5 にしてしまう「こふみ会」の流儀に従って、ためらいもなく(孝多は作句するでしょう)≫とも書きました。

しかし、しかし、今は、これを訂正しなければなりません。上記のような「こふみ会」の流儀は無くなっているようです。皆さん、風の盆に行ったことが無くても、知らないことではないのです。孝多だけです。行ったことが無いから知らないのは。それを教えてもらいました。(二次会っていいですね。こんなに勉強できる所は滅多にありません。同席のメンバーに心から感謝致します。)

こふみ会3-2.jpg


    
ところで、今回、私・孝多が句会の席で選んだ句(読み上げた句)は下記のとおりです。(敬称略)、
客『まま母も 養子もひと盛り 親子丼』 更歩
客『丸まって 失敗隠す 芋虫は』 淡火
客『若さとは 首の細さよ 風の盆』 五七
客『芋虫や 色なき夢の 覚めるとき』 風歌
客『芋虫や 空舞ふ夢を 見つづけて』 矢多
人『親子丼 その咳払い 嫌なのよ』 風歌
地『芋虫を 運命線に そっと置く』 五七
天『芋虫や 少年院の 面会日』 タケシ
花『親子丼 ぬるいし雨天 中止だし』 五七

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*ひとくちメモ③
天・地・人・客などのランキングを付けて選句することは、どこの句会でも、行われていることですが、「花」のある句会は少数派のようです。
「花」とは何か? こふみ会として定義を設けているわけではありません。各自、それぞれの自由な考えで「花」の句を選んでいます。
私・孝多の場合、「花」とは≪1位にランクしたい句であるが、あの、金縁の短冊には書きにくい句。≫のことです。 番外・アウトロウの佳句とも申せましょう。
花の句は得点ナシです。しかし、記念品は付きます。
ランキング(花・天・地・人)によって、品物に差異を付けるかどうかも、各自の自由です。記念品は総額で2000円以内というのが普通のようです。
かつて、意図的に「花」に選ばれるようにして作る ≪花ねらい≫ というのが流行ったこともありました。
天は7点、地は5点、人は3点で客は記念品が付かず、得点は1点です。
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句会の大詰めは『成績発表』です。
当番幹事が呼びあげます。
しかし、もたもたしていて、会場での数字などの記録の収集がヘタな孝多には≪ブログを書くための総合資料として、月報係から後日送ってもらう記録書類≫があります。今回も、それをモトにして書いて居ります。この資料の中には各位からの「出欠返信レター」も、当日詠まれた全句も入っています。(月報係に感謝!!)

天=五七さん。50点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
地=タケシさん。41点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
人=孝多さん。24点。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。
花=更歩さんと五七さんと不実さん。3輪ずつ。おめでとうございま~す。パチパチパチッ。

しかしですよ。上記の「地」と「人」の間の点数の、何と大きく開いていることか。 十馬身の差? まさに老馬・孝多が、ようやくゴール・インと言ったところです。

どんな句を孝多は提出(投句)したのか……。当日の四句。
◆名の由来 思えば酷(むご)し 親子丼
 ……このブログにもいろいろ書きましたが、やはり、ネーミングへの固執でした。
◆風の盆 遠く想いを 馳(は)せるのみ
  ……あれこれ書きましたが、やはり、行ったことの無いことへの執着でした。
◆頑張って 生きていますね 芋虫くん
 ……「負けるな一茶 これにあり」と、重ねたつもりだったのですけれど。【芋虫=席題】同じようですが違います。芋虫は裸の幼虫たちの総称であり、毛虫は毛が生えた幼虫たちの総称です。と、幹事・更歩さんから説明がありました。
◆松葉牡丹 悪口言えば 咲きにけり
 ……嬉しや、風歌さんとタケシさんから短冊(天)を頂きました。【松葉牡丹=席題】「日照草(ひでりそう)」とも「爪切草(つめきりそう)」とも言う、と歳時記に出てました。なぜ「爪切草」? 夕方には花を閉じてしまうので、人は、この花が咲いているうちに(明るいうちに)爪を切らねばならない……ということ??
何やら良く分かりませんが、おかげさまにて、有難く、帰りも良い良いとなりました。

                                                        (第3話・完)

◆◆事務局からのお知らせ◆◆
こふみ会・第525回(今回)にて詠まれた全48句をメールでお届けします。ご希望の方はe-mailにて下記までお申し込みください。
           chinokigi@kg7.so-net.ne.jp


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水野タケシ

「松葉牡丹 悪口言えば 咲きにけり」

孝多先生のこの一句、今年一番好きな句かもしれません。

10月の句会も近づいてまいりましたが、また勉強させていただきます!!
by 水野タケシ (2013-10-05 09:25) 

寿限無

多比羅先生、総合「人」様おめでとうございます。
「天」とは十馬身の差のコメント。
笑ってしまいました。

先生の選句の中では、

『芋虫を 運命線に そっと置く』 五七

の句面白いと思いました。

ご自分の句の解説も分かりやすくて参考になりました。

次回も楽しみにしています。
by 寿限無 (2013-10-15 09:17) 

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