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山羊の歌 №8 [文芸美術の森]

都会の夏の夜

       詩人  中原中也

 月は空にメダルのやうに、
 街角(まちかど)に建物はオルガンのやうに、
 遊び疲れた男どち唱ひながらに帰ってゆく。
 ――イカムネ・カラアがまがつてゐる――

 その唇(くちびる)はひら(月+去)ききつて
 その心は何か悲しい。
 頭が暗い土塊になって、
 ただもうラアラア唱ってゆくのだ。

 商用のことや祖先のことや
 忘れてゐるといふではないが、
 都会の夏の夜の更(ふけ)――
 死んだ火薬と深くして
 眼に外燈の滲みいれば
 ただもうラアラア唱ってゆくのだ。


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