SSブログ

住宅団地 記憶と再生 №50 [雑木林の四季]

Ⅵ 武蔵野線町団地(武蔵野緑町パークタウン)
 
     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

建て替え20年後の現実

 ひさしぶりに2020年2月に線町団地を訪ねた。武蔵野住宅のバス停をおりると、まわりは高層の建物ばかりで記憶にのこる光景は一変しており、団地の方角に一瞬戸惑った。団地のなかに円弧を描く道路と集会所のある建物のまえの広場や木立ちに、ややかつての面影は見いだせるが、やはりまったく新規の団地にはちがいない。
 他の建て替え団地も念頭におきながら、自治会が住民案をしめして公団原案を修正させたいくつかの点を確認して歩いた。なかでも関心をもったのは、ユニット戸数の少ない住棟づくりと、1階に設けられた出会いの場、潜り抜け通路の設置である。自治会はなによりも住民コミュニティの形成を第一に団地設計も要求してきたが、やはり戸数の少ない住棟のはうが住民同士まとまり、交流しやすいことは確かなようだ。わたしはドイツの団地で、エレベーターの有無にかかわらず片廊下式の多階住棟は見たことがない。コミュニティの形成を図るなら階段室式であるべきだと思っている。エレベーターを共用する戸数が少なければ片廊下式でも階段室式の効果があるのだろう。
 建て替えは、従前居住者が全員戻り入居してもこれまでに築いたコミュニティをご破算にすることであるし、隣人関係の原状回復は望めない。ましてこの団地では、建て替え後家賃があまりにも高くて、戻り入居者は当初おそらく30%程度、10年間の家賃減額期間が終わるところには戻り入居者の多くが定年期をむかえ、再退去をよぎなくされて20%に、さらに高齢化、所得低下もすすみ、いまでは10%を切っているのではないか。
 コミュニティの形成が困難なのは、従前からの継続居住者が極端に少ないからだけではない。より大きな問題は入退去の頻発である。この団地855戸のうち最多の2DK、2LDK(45~68Iポ)で家賃は概ね10~18万円である。民間家賃より高いとの世評もあり、年間120~130件の入退去をくりかえし、「定期借家」を理由に家賃割り引きをし空き家を埋めてはいるが、10%は常時空き家である。安定した継続居住がなければ、継続居住によってこそ育まれる住民の連帯、地域への愛着なしに、コミュニティが形成され、成熟する道理はない。「公共住宅建て替え」の意味をきびしく問われなければならない。
 政府・都市機構がつくりだした困難な条件のもとで、この団地の自治会も、きっとどこかで「賽の河原」の虚しさを感じながらも、必死にコミュニティづくりに努力しているのであろう。入居の新旧を問わず住民共通の関心事である「防災」をテーマに活動を強め、全戸の安否確認訓練、炊き出しなどのほか、夏祭りや喫茶「グリーングラス」、映画会、コンサート等々だれもが参加できるイベントを重ねている。こうして培われている住民パワーは、居住を守る対抗力にもなりうる。
 旧縁町団地の敷地内に道路をはさんで都営住宅が併設された。戻り入居のできない人たちも同じ地域で住みつづけられる点では、自治会運動の一定の成果ではある。併設された都営住宅240戸のうち120戸は、緑町団地はか他の建て替え団地からの転居先に確保されている。ともに新設された隣り合わせの両団地の住民どうしの交流、親睦の実情についてたずね、所得によって住む建物をあからさまに区分する差別政策が人心に及ぼす影響を知らされた。近隣ではあっても人工の壁が人びとの交流を阻んでいる。都営に移って両団地合同の老人会を立ちあげ、盛りたててこられた故Yさんのご苦労をうかがった。
 古くからわたしが見知っていた人たちはもうこの団地には住んでいないようで、別れを告げるような思いで帰途についた。

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。