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住宅団地 記憶と再生 №47 [雑木林の四季]

Ⅵ 武蔵野線町団地(武蔵野緑町パークタウン)
 
     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

建て替え後家賃のからくり

 「家賃は大家が考えること」とは、とくに建て替え後の家賃について、わたしはそうは思わない。戻り入居でき、住みなれた同じ地に住みつづけられてこそ「建て替え」である。一般に建て替えは居住の継続を前提としており、賃貸借契約中の家賃の変更に相当すると考えるならば借家法上の大家と店子の「協議」の対象となるべきである。借家法上「正当事由」のない建て替えにおいて継続居住を保障する家賃を要求するのは賃借人の当然の権利とはいえないか。建物をかってに壊し、高騰した周辺地価をもとに敷地を再評価し、地価高騰による利益をひとり占めして新規家賃を算出する。地域の発展に寄与してきた居住者とその利益を分け合うことはしない。公団は従前居住者がその地に住みつづける権利を認めない。建て替え後の家賃が払えなければ戻り入居はできず、引っ越すしかない。公団住宅は従前居住者の家賃支払いによってきずいた国の資産である。その国の資産を再び居住者の負担と犠牲で建て替えをし、国庫支援をしないばかりか大儲けをたくらむ国の収益事業といわねばならない。低所得層を追い出す政策である。多くの居住者をその地から追い出すことは、コミュニティを破壊することでもある。
 全国自治協は公団が1986年に建て替え事業に着手するとすぐ、「抜本的見直しを求める7項目要求」をしめし、1992年9月1日には「戻り入居と定住を保障する家賃制度を要求します-—公団住宅の建て替え後家賃についての提言」を発表した。戻り入居世帯の負担限度内での家賃設定、公営住宅入居階層には公営住宅並みの家賃の設定を要求して、国会にたいし、地方議会にたいしも要請活動を展開した。

 国会でもすぐ、団地自治会・自治協の要請をうけてとりあげられた。たとえば、その回数の最も多かった参議院の上田耕一郎議員を例にあげると、1991年12月17日の建設委員会で「この問題を86年以来6回質問し、きょうは7回目」、「10月以来、5日に武蔵野線町、13日に三鷹の新川、30日には久米川団地に行って自治会と懇談し、あしたは桜堤団地へ行く」とのべ、国政上の大きな問題として捉えられていたことが分かる。また92年12月7日の建設委員会では梶原敬義建設委員長に「武蔵野市の緑町団地を視察され、居住者と懇談されてのご感想は」と問い、「確かに、将来家賃を払えないという心配をされている方が随分いました」との答弁を引き出している。
 91年12月17日は、山崎拓建設大臣新任とあって公団の建て替え事業の問題点全体に論及するなかでも、上田議員は家賃を3倍にもして多数の従前居住者を追い出し、しかも事業に明け渡し請求の正当事由もないのに合意をしなければ裁判にかける、「まるで地上げ屋ですよ」と暴挙ぶりを鋭く追及している。これにたいし立石真住宅局長は「家賃は、まったく新しい住宅なので、通常の新規住宅と均衡のとれた適正なもの」、「戻り入居者には家賃の激変緩和措置を講ずるはか、家賃が同程度の他の公団住宅をあっせんしている」と、建て替えは住みつづける権利を無視した事業であることを認め、丸山良仁公団総裁は「5,395名が合意、反対は11名、暴挙で99.8%の合意は得られません」と、自らの暴挙への無感覚を露わにした答弁だった。
 建て替え事業のねらいが居住者追い出しであり、収益増であることの証明として上田議員が87年7月30日の建設委員会でとりあげた従前居住者の戻り入居率をめぐる論議は興味深い。
 新規家賃の設定に戻り入居率を40%、50%などと見込むこと自体、従前居住者追い出しを意味するが、その操作によって収益増をたくらんでいたとはさらに驚く。上田質問に答えて、渡辺尚公団理事は小杉御殿団地では戻り入居希望は40%、戻り入居者への7年間の減額分は「公募家賃の33か月分」と明かした。公団は建て替えで60%の世帯が退去すると見込んで収入計画を立て家賃設定をしたのであろう。しかし60%が戻るとなれば、家賃減額等の措置を要する入居者が増え、公募家賃分の収入が減って採算見込みに狂いがでるといった発言だった。
 さらに上田議員は、武蔵野線町団地について公団関係者から入手した試算例をしめし、原価が戸当たり月77,314円を2万円高く約96,200円の家賃で貸し、分譲住宅は原価約2,390万円を3,980万円で売って儲けようとしていると質した。こんどは「戻り率95%」として新規家賃を高く計算し、実際には50%ぐらいの戻りで家賃減額は少なくてすみ、当初から半数は公募家賃が入るから、その席で丸山総裁がいった「ある程度儲かる」どころか、大儲けになる。家賃算出の資料を出すよう求めても、総裁は「個々の団地についてお出しすることはできません」と逃げた。建て替え後の家賃を払えない世帯を追い出して高層にし、空地をつくって新たに分譲住宅をたてて売り出す。居住者にとっては非情な仕打ち、金儲け丸出しの正体を見せた。分譲はその後、売れる見込みがたたず断念したことは、すでに述べた。
 もう一つ「戻り入居」に問題があるのは、住みなれた団地に戻ったものの、7年とか10年間毎年1万円単位で上がっていく。それが終わってもさらに家賃値上げはありうるし、高齢化にともなって収入は低下、高家賃に耐えられず、また再退去をよぎなくされるケースがけっして少なくないことである。かりに当初30%あった戻り入居が、結局10年たたずして、たとえば20%、やがて10%以下ということもありうる。継続居住者の自然減はあるにしても、公団の「建て替え」事業が高齢化する住民を追い出し、コミュニティは消滅、その後の形成を阻害している現実をいまに見ることができる。

[住宅団地 記憶と再生』 東信堂


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