美味懐古 №4 [雑木林の四季]
オー・バトー・イーブル
加茂史也
加茂史也
前説・世の中の移り変わりに消えていった店がある。1950年代から1970年にかけ東京にあった店。今も憶えている店。そんな店を心の内に訪ねてみた。
店の名前におやと思った。19世紀フランスの天才詩人アルチュール・ランボー(1854- 1891)の詩集『酔いどれ船』を店の名前にしているからだ。
千代田区一番町のダイアモンドホテルに店がある。こざっぱりしたしつらえだ。
メニューに
スペイン風胃袋の煮込み
舌平目のムニエル
カタツムリのブルゴーニュ風
チキンのクスクス
クスクスとは小麦の粗挽き粉からつくる粒.。アフリカから伝わったという。クスクスを使った料理もクスクス呼ばれるとか。
鶏肉、ニンジン、タマネギ、ビーマン、トマト、セロリなどを煮込んでクスクスを加え、オリーブオイルを添えて出てきた。さっぱりして小気味いい味だ。
給仕の女の子『酔いどれ船』を知ってるのと訊ねてみる。いやあ、あなたもですかという顔で、店の名前は名前、私は店で働くだけですよと笑顔が帰ってきた。
アルチュール・ランボー(1854- 1891)は19世紀フランスの天才詩人だ。家を飛び出して漂泊。詩集『酔いどれ船』はじめ魅惑的な多くの詩を残して37歳で病没。
『酔いどれ船』の訳詞はいくつもあるが、私は寺山修司のものが好きだ。
一人で酒を飲むやつぁ
しみじみ人が恋しかろ
別れた人を思い出すだろう
2人で酒を飲むやつぁ
結ばれるとは限らない
あすは他人になる恋もある
おいでよ おいでよ酔いどれ船においで
あたしと一緒に船出をしよう
ふしあわせという名の夜をのがれて
私は独りでケーキを食べながら黙って詩を諳んじる。それなりに充実した午後だった。
2024-11-14 15:44
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