住宅団地 記憶と再生 №46 [雑木林の四季]
Ⅵ 武蔵野線町団地(武蔵野緑町パークタウン)
国立市富士見台団地自治会長 多和田栄治
「文集らくがき町」
住民一人ひとりの記憶と思いを束ねたのが「文集らくがき町」である。いずれも説明会のあとに書かれた文章、イラスト、短歌、川柳など150編がよせられている。建て替え着手に強いて功績を一つあげるとすれば、居住者がふりかえって緑町団地のすばらしさを再発見し讃えるきっかけをつくったことであろう。自然がいっぱいの環境のなかでの暮らしと子どもたちの成長、歳月をかけて育まれた豊かな隣人関係への思い出、あふれんばかりの懐かしみが、建て替えの刃をむけられ、言い知れぬ怒り、深い悲しみと不安に転じるさまが読みとれる。住宅が古いの新しいのが声になる余裕はない。ここに略してごく一部を引用しておく。
○木登りできて、昆虫を追いかけ、泥んこ遊びのできる、こんなステキな環境でわが子を育てることができて幸せです。
○若かったお母さんがそれぞれ孫をもち、住みなれた線町にいまも暮らしています。夕方、買い物に出ると幾人かの顔見知りと会い、「こんにちは」「寒いですね」と声をかけあいます。こんなに心やすらかに毎日を送れる緑町を離れることなど考えると胸が痛みます。
○じんちょうげ、梅、こぶし、しだれ桜、そしてもちろん満開の桜…懐 かしい花々が、ヒマラヤ杉、けやき、くす、しいの木々の間に、いとまなく季節の移り変わりを知らせてくれる。小鳥ならずとも歌いたくなる。自然を間近に感じてここに住むことの幸福を幾度となく味わって時を経てきた。/新しい部屋の間取りと値段を見せつけられ、引越料をしめされて希望を問われ、こんなに高くては住めないし、結局ここに住めない。出ていくしかない。年老いて追い出されるのだということに気づく。部屋にいると四六時中思い悩むはめになる。公団は生きている人のことはほとんど考えないでやっているらしい。
〇人々の犠牲の上に建て替えがすすめられ、それが国の方針であるとしたら、私共は何をもって対処していったらよいのであろうか。せめて年金生活者でも食べていける家賃にしてほしい。すべて家賃で消えてしまう。この心配さえなければ建て替えに反対しない。残り少ない老後を緑とともに暮らしたいと願うのは贅沢なのだろうか。いろいろ支えてくださった友達、日夜活動してくださる役員の皆々様には感謝します。
〇ブルドーザーで思い出を根こそぎ掘り返して殺風景な団地を建設しないよう私は願っています。
『住宅団地 記憶と再生』 東信堂
『住宅団地 記憶と再生』 東信堂
2024-10-30 08:38
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