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山羊の歌 №2 [文芸美術の森]



         詩人  中原中也

今宵月はいよよ愁(かな)しく、
養父の疑惑に瞳をみはる。    (原文では「みはる」は「目+爭」る)
秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し
老男(ろうなん)の耳朶(じだ)は蛍光をともす。

あ~忘られた運河の岸堤
胸に残った戦車の地音
錆(さ)びつく罐(かん)の煙草とりいで
月は嬾(ものう)く喫ってゐる。

それのめぐりを七人の天女は
趾頭(しとう)舞踊しつづけてゐるが、
汚辱に浸る月の心に
なんの慰愛もあたへはしない。
遠(をち)にちらばる星と星よ!
おまへの創手(そうしゅ)を月は待ってる  (原文では「創」は旧漢字)

『中原中也全詩集』 角川ソフィア文庫


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