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山羊の歌 №1 [文芸美術の森]

春の日の夕暮

       詩人  中原中也

トタソがセソベイ食べて
春の日の夕暮れは穂かです  
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮れは静かです

吁(ああ)! 案山子はないか - あるまい
馬噺(いなな)くか - 噺きもしまい
ただただ月の光のヌメランとするまゝに
従順なのは 春の日の夕暮れか

ポトホトと野の中に伽藍は紅く
荷馬車の車輪 油を失ひ
私が歴史的現在に物を云へば
嘲(あざけ)る嘲る 空と山とが

瓦が一枚 はぐれました
これから春の日の夕暮れは
無言ながら 前進します
自らの 静脈管の中へです

『中原中也全詩集』角川文庫

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