住宅団地 記憶と再生 №42 [雑木林の四季]
Ⅵ 武蔵野線町団地(武蔵野緑町パークタウン)
国立市富士見台団地自治会長 多和田栄治
国立市富士見台団地自治会長 多和田栄治
武蔵野線町団地 武蔵野緑町パークタウン
東京都武蔵野市西窪 東京都武蔵野市緑町2丁目
入居年月 1957.11~58.02 入居年月1996.03~2003・01
敷地面積 7.8ヘクタール 敷地面積 6.9ヘクタール
単身(男)1K190戸 20棟 5~12階
小世帯lDK130戸 855戸
世帯 2DK・3DK699戸 2DK~3LDK(45~89㎡)
計1,019戸 家賃 99,600~189,600円
当初家賃 3,450~7,550円
武蔵野線町団地をとりあげたのは、住宅雑誌等で「住民と公団のパートナーシップ方式をひらいた団地」*と紹介されていて関心があり、当時の自治会役員に話を聞くことができ、関係資料も借用できたからである。
*延藤安弘ほか論文「住宅」1993年12月号、延藤『創造的な住まいづくり・まちづくり』(1994年、岩波ブックレットNo・353)
わたし自身は1980年代はじめに、公団家賃裁判の原告として幾度もこの団地に来ており、マイク宣伝で団地内を回ったりもしている。昭和30年代団地に共通の特徴だろうが、まとまった地形、中央部は広々としたオープンスペースに星形住棟、集会所や子どもの遊び場、つつじなどの群櫓、団地のなかをリング状にめぐる道沿いの並木、市役所につうじる東西の緑道、1棟が20~30戸の短い住横配置、緑ゆたかというだけでなく樹種の多様さ、等々が記憶に残っている。わたしが住む昭和40年代の団地とちがって風情があり、個性的な趣きがあった。
今回たまたま『武蔵野線町団地の建替事業10年間の歩み』(1998年、120ページ)を手にした。住宅・都市整備公団が武蔵野市と自治会の協力をえて、事業着手の1986年から96年の最初の戻り入居までの経過を研修用テキスト(内部資料扱い)にまとめたものである。この類の記録はほかには知らない。貴重な記録であり、大いに参考になった。稀有と思えるのは記録の作成だけではなかった。
団地は武蔵野市の北部、JR中央線三鷹駅と西武新宿線東伏見駅の中間に位置している。敷地は半径約300メートルの円形をなし、もと国鉄スワローズのフランチャイズ球場として1951年に開設された武蔵野グリーンパーク野球場であった。日本住宅公団が請われてそれを買収し、約7ヘクタールの敷地に57年、1,019戸の縁町団地が建設された。住棟は4~5階建ての階段室型で、lK(12d)190戸、lDK(29頑130戸、2DK(32~37跳83戸、3DK(43㎡16戸からなり、容積率は61%であった。
公団は「2DK」をキャッチフレーズにしながら、そのじつ1960年代初めまで、少ない予算で建設戸数のノルマを果たすため狭小なlK、lDK住宅を数多く建てて数字を稼いでいた。線町団地でもIKは3畳1間に小さな水場、風呂・トイレは共同の「住宅」190戸がl棟をなしていた。こうした非人間的な状態を改善せず長く放置し、こんどは「居住水準の向上」を名目に団地全体を収益本位の事業にまきこむというのが「建て替え」であった。
管理開始して30年目である。住都公団は1986年に建て替え事業を発表するとすぐ武蔵野市長に面談し、多摩地区の自治会協議会にも検討中の事業構想をったえた。予定団地には緑町団地もふくまれ、早い時期の着手を計画していた。当時この団地自治会は事務所がなく、体制が整っていたとはいえない状態にあった。公団も「静穏な」自治会とふんでいた。しかし小杉御殿団地着手の報をうけて自治協が対策会議をひらき、これに参加して事態の緊迫、深刻さを知ると、ただちに32棟が棟ごとに集会をひらき、自治会は学習会、住民アンケート等をかさね、87年3月には建替問題対策委員会を設置し、ニュース「みどり町」を発刊した。委員会には全棟から多いときは約80名が参加した。さっそく小杉御殿団地を訪れて驚いたのは、事業計画の強権的な押しつけと、3倍以上にもバネ上がる建て替え後の家賃であった。
わたしが「住宅」誌などの延藤論文を読んで気になったのは、公団の建て替え事業について「団地が建て替えの時期にさしかかり」とか、「団地も時代の流れのなかで生まれ変わりの時をむかえ」との受けとめ方である。そう受け流せば、なぜ建て替えなのかの異常な政治的背景や外圧は見えてこないし、建物の大規模改修や増築などの検討はふっとび、住民が犠牲になる重大な結果にならないかと危惧した。しかし、ともあれ延藤がいう「3すぎ」は,指摘どおりにはちがいない。①事業量確保のための「急ぎすぎ」、②建て替え椎の家賃の高額激変による「負担のかけすぎ」、③採算性優先にともなう高密度化による「詰めこみすぎ」は明白である。
『住宅団地 記憶と再生』 東信堂
『住宅団地 記憶と再生』 東信堂
2024-08-28 07:14
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