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地球千鳥足Ⅱ №52 [雑木林の四季]

アラスカの醍醐味、釣りと温泉  2


       小川地球村塾村長  小川律総

 チナ (Chena)温泉に浸かった。北緯六五度以北に位置する温泉は、こことアイスランドぐらいのものだろう。この野外温泉は、大岩に囲まれた大池のような規模で砂底からお湯が湧く。プール温度は摂氏四四度、夏場は多量の水で薄めないと入浴出来ない状態だ。混んでもよいとすれば三百人は入浴出来る広さだったが、いつも十人前後しか入っていなかった。泳ぐのも自由で、一日三回、のんびりくつろがせてもらった。浴槽の蒸気範囲
から外れると蚊の集団に襲われるので、湯辺に寝そべるわけにはいかない。だから高温ぎみの露天を避け、ジャクジなどの浴槽に多くの人が浸かっていた。屋内外には、ジャクジとプール、合わせて五箇所設置されていた。これらは騒々しく、家族連れで賑わっていた。二泊したが朝はムースの親子連れが水を飲みにやって来て、湯治客や観光客の人気を集め、ほほえましい光景であった。

 チナ温泉では遊覧飛行も体験した。原生林すれすれを飛びその景観を楽しむもの。我々夫婦の搭乗したのは水陸両用の四人乗りセスナ機、マディソン・レイクに着水して湖上で機長からシャンパンをいただいたが、最高の気分を味わった一時だった。近くにあるアークティツク・サークル温泉も事前に訪問予定をたてていたが、フェアーバンクスから一八〇キロ、しかも四分の三はジャリ道で、時間と運転の大変さを考えて諦めていた。ところがパイロットの好意でこのサークル温泉にも着地し、その施設を見学させてもらった。ここはその昔炭鉱夫相手の温泉だったようでプールのみ。ホテル施設は結構整備されていたが、交通が不便な関係からか閑散としていた。セスナ一機が常備されていた。

 ワイフはマッキンレイの遊覧飛行もおこなった。墜ちた場合の不安が先立ってかなかなか決心がつかないようだったが、前回のセスナ機で慣れたのか急に積極的になった。天候良し。眼下に広大な氷河を見下ろし、万年雪に輝く山々に翼が触れるほどすれすれに飛行、マッキンレイも一周するスリル満点の飛行で異次元の世界を味わったようだ。着陸した時大変興奮していた。私が飛行場に早めに迎えに行った折気づいたが、次から次と乗客が来ては飛行を契約するので、結構人気のあることを知った。お金のかかる観光なのに。

 ホールゲイト(Holgate)氷河も、スワードから船で行った。間近まで船を接近させてくれた。バラエティーに富む碧色に輝く氷河の層が海面に押し出されて、崩れ落ちる様も見られ、その轟音も聞いた。何万年前の氷が水にかえる瞬間と思えば感慨深いが、かつてアルゼンチンのパタゴニアで見た氷河の美しさと比較すれば、規模からして物足りない。氷河の高さといい、氷柱の幅といい、やはり大きいほど迫力がある。今回は崩れる様を絵にしてみたいという欲求にかられた。ドーン、ドーンと船にあたる氷の音は氷河観光の印象を深いものにしてくれた。

 今回北極圏の温泉に浸かれたことの意義を噛みしめ、丈夫で長生き出来たことに感謝した。本場アラスカ・クラブ(タラバガニ)の大きな脚も美味しかった。極限的醍醐味を満喫したこのアラスカの旅、ワイフはマッキンレイ・フライトを第一にあげ、それを逃した私を気の毒がったが、サーモン釣りも、ユニークだった北極圏の温泉も、「行動こそ我が人生」、という人生観の実践の一環だった。体験を積み重ねることで老化を撃退し、若者のように人生を楽しんでいる。
                     (二〇〇二年八月)

『万年青年のための予防医学』  文芸社


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