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住宅団地 記憶と再生 №40 [雑木林の四季]

Ⅳ 公団住宅の「建て替え」事業とは何だったのか? 4
 
    国立市富士見台団地自治解消  多和田栄治 

建て替え事業の実施

 公団は事業発表から1か月足らずで小杉御殿団地の居住者説明会を開いた。居住者の生活設計をゆるがす事業計画がその日、問答無用とばかりに確定される。当初そのことは居住者によく理解されていなかった。説明会以前に公団の計画内容について当事者間で話し合い、居住者が修正をもとめ、ときには対案をだして協議し、合意にいたるに十分な月日が不可欠である。建て替えが予想される各団地自治会は、小杉御殿の事態に接して急きょ対策委員会を設置し、体制づくりにかかった。
 関東では、小杉御殿(川崎市)につづいて、87年蓮根(東京都板橋区)、88年青戸第1(葛飾区)、柳沢(西東京市)、木月住吉(川崎市)、相模大野(相模原市)、89年東新小岩(葛飾区)、東経堂(世田谷区)、久米川(東村山市)、府中(府中市)、大久保(習志野市)、日吉(横浜市)、上倉田(横浜市)、新所沢(所沢市)などが順次着手されていった。
 事業の進め方は概ねつぎのとおりである。
 ①居住者説明会の開催は事業実施の基準日となる。計画の概要、間取りと概算家賃、移転の条件等を提示する。説明会の日から2年後を移転期限とし、居住者に一時使用賃貸借契約への切り替えと建て替え同意書の覚書締結を求める。②診住宅希望調査をして、建て替え後の住宅に入居する(戻り入居)か、他の公団住宅または民間住宅へ転出する(本移転)かを確かめ、その結果にもとづいて工区割りを決定するはか、住戸プランや戸数などについて建て替え計画の見直しをおこなう。③移転期限内に本移転者は他団地等へ、戻り
入居予定者は後工区の空き家または他団地へ転出させ、すべて空き家となって賃貸住宅としての用途を廃止する。④2年間の移転期限がすぎ、1年半から2年をかけて先工区の除却・建設工事をおこない、建て替え後住宅が完成し、戻り入居者が入居する。⑤後工区はすべて空き家となり、用途廃止をして除却・建設工事がはじまる。建て替え後住宅が完成し、入居者の一般公募をおこなう。
 工事実施の方法はこの工区制のほかに、団地の規模や立地条件などによって、期別制、ブロック制、その併合等がとられる。
 居住者にとって「説明会」は移転期限の確定であるから、自治会はけっして早急には開催させず、事前に何回にもわたって公団と交渉をもち、建て替え計画について質し要求をする。公団は概して応えようとしない。説明会は、計画は確定したものとして公団が1時間半ほど一方的に説明し、形ばかりの質疑応答を30分ほどで打ちきり閉会するのが通例である。建て替えは任意事業であり、借家法上正当事由がないため、居住者の合意は不可欠であり、居住者全員の合意をとりつけねばならない。「末同意者」には法的措置を示唆することも辞さず、公団職員が居住者個別に説得に回ることになる。
 居住者は、突然の建て替え通告に当惑し、2~3倍にもバネ上がる新家賃を聞いて驚き、説明会で条件が提示されると、関心は建て替え後の家賃と減額措置や新居の間取り、あっせんされる移転先住宅、支払われる引越し料などに向く。まずは「条件闘争」的な空気が支配するのは止むをえない。消極的にせよ建て替え賛成派から絶対反対派まで出るなかで、自治会として初めから居住者の意見を一本にまとめることなど及びもつかない。できないのは当然で、無理にまとめること自体まちがっている。とりあえず自治会として最低限確認しあうのは、①すべての居住者が住みつづけられること、②公団は一方的に進めるのではなく、自治会との十分な話し合いを要求していくことであった。自治会はそれぞれに討議をかさねて結束をはかり、地元自治体や国会議員にも訴えるなど対応をすすめた。事態の進行のなかで認識が深まり要求が統一されて、自治会の方針と目標が確立されていった。
 公団が建て替え事業開始を発表し、ただちにその通告をうけた団地自治会の苦闘の一端を、わたしは蓮根、柳沢、金町の3団地を例に『検証公団居住60年』に書いた。こうした各団地での事業計画の内容、自治会の取り組みの経過等を検討して全国公団住宅自治会協議会(全国自治協)は1987年11月「建て替えの抜本的見直しを求める7項目要求」を提起した。
 ①居住者にとって居住性の向上になる真の建て替えにする。
 ②家賃は建て替え後も現行家賃に準じたものにする。
 ③団地全体を画一的に建て替えるのではなく、実施に柔軟性をもたせ、居住者に考慮と選択の余地を保障する。
 ④公共貸賃住宅として建て替える。
 ⑤高齢者・身障者世帯等に配慮した家賃、住宅設備にする。
 ⑥「国の施策」として補助金等の特別措置を講ずる。
 ⑦計画の検討段階から自治会・自治協と十分に話し合い、一方的な押し付けをしない。

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂


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